SF ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years
第4章 1963年 - すべての始まり 〜 8 智子の両親(2)
第4章 1963年 - すべての始まり 〜 8 智子の両親(2)
8 智子の両親(2)
業界で言うところの一番地、すなわち店内で最高にいい場所で打ち出されたのだ。ところが三日後には奥の方に追いやられ、返品となる数日前にはダイナミックに間引きされる。そうして残った数点も、大手メーカーの専属ラックに押し込められてしまった。
きっと、何かを間違えた。
それでもあと五、六年もすれば、流行についての記憶も段違いにハッキリしてくる。けれどそうなった時、世界が記憶通りに動いてくれる保証はないし、さらにもし、剛志の記憶が間違っていれば、またまた小柳社長に悲しい思いをさせるのだ。
――もう二度と、彼に迷惑はかけたくない!
だから誰もいない時間を見計らって、剛志は社長の机に辞表を置いた。迷惑をかけたという詫び状を添えて、さっさと庭にある事務所を後にする。
それからすでにひと月経って、連絡先にしておいた児玉亭には何度か電話があったらしい。
しかし剛志はそんな電話を無視し続けた。
そうして今日、この時代で正一と出会って以来、初めて林に向かって歩いている。
きっともう、マシンは戻ってこないのだ。智子がマシンの操作を忘れたか、何かに邪魔され戻れなかった。だからと言って、すぐに何か始めようなんて気にもなれない。だからしばらくは、この世の中を観察し、もしも記憶通りに動くようなら、これ幸いだ。
――株でもいいし、土地だっていいんだ。
その時点での残金すべて使って、記憶にあるベストの選択を繰り返していく。
それでだめならサラリーマンにでもなればいいと、剛志はようやく腹を決めた。
そうしてやっと、彼は林に行こうと思いつく。あの岩をちゃんと見届けて、この時代で生き抜く覚悟を刻み込もうと思うのだ。
そして思った通り、やはりマシンは戻っていない。
一目見て、剛志はそんな事実をすぐ知った。戻っていれば、座れるはずのない岩の上に、俯き加減の男があぐらをかいて座っている。
――ああやっぱり、そうだよな……。
それでもそれなりにショックは受けて、剛志は視線を落として下を向いた。
そのままふた呼吸くらいして、再び顔を上げようとした時だった。
「あんた、誰だ?」
微塵の好意も感じさせない声がして、見れば男が上目遣いに剛志を睨みつけていた。
「いえ、ちょっと……」
剛志は思わずそう言って、とっさに何かを言いかける。すると俯き加減だった男の顔が、視線を変えずに正面を向いた。
その瞬間、男がどうしてそこにいて、何ゆえ不機嫌そうかを思い知るのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます