第3章  1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 6 タイムマシンと乱入者(3)

 6 タイムマシンと乱入者(3)

 



 ただ、そう決めつけたとして、未来にだけってのはどう考えても不自然だろう。

 智子は依然中には入らず、心配そうな顔で階段から様子を見守っている。

 そんな彼女は、昨夜確かにこう言ったのだ。

「わたしのすぐ前で伊藤さん、背中を向けて何かをしてました。何をしてたのかは見えなかったけど……そう、ほんの十秒とか、そのくらいだったと思います」

 そして伊藤は何かをし終えて、すぐにそこから出て行ってしまった。となればきっと、このボードの数字を前にして、何かしていたに決まっている。

 その結果、この空間は二十年未来にまで運ばれた。だから過去に戻るには、切り替えスイッチのようなものがあるはずだ。それとも単に、八桁の数字をマイナスにでもするか?

 そんなことを考えながら、彼は恐る恐る左端ある数字に触れてみた。

 すると黒い数字が0からスッと1になり、触っただけさらに数が増えていく。

 9までいって0となり、そんな変化はその隣でも、またその隣でもまったく同じ。

 0から9まで循環して、いくらやってもマイナスにはならない。なんともスムーズに数は変わるが、依然過去への設定はわからないままだ。

 それから剛志は、前方の壁を徹底的に触りまくった。

 さらに椅子を叩いてみたり、足踏みしたりして、

「過去に戻る! 二十年バック! トエンティ! パースト! パースト!」

 思いつく言葉を次から次へと声にした。

 ところが何をやっても反応がない。とうとう半ば投げやりになって、

 ――どうすりゃいいんだよ!

 こんな感情いっぱい指を数字に押しつけたのだ。

 するとなんとも呆気なく、数字の色が瞬時に変わった。

 浮かび上がっていた黒い数が、すべて一気に光り輝く白になる。

 タイムマシンが起動した!

 そんな恐怖に身動きできず、彼はただただ目の前の数字を心に刻む。

 00001960……。

 ――1960年も先に、地球はあってくれるのか!?

 そんな思いとともに目を閉じて、剛志は全身に力を込めた。


「最初、あの八桁の数字は20になっていた。あれは智ちゃんが二十年後、つまりこの時代にやって来た時のままだろうから、最初の黒い数字が未来への年数で、長押しして白字になると、今度は逆に、過去へさかのぼる年数を表すってことなんだと思う。ただ、八桁ってところがね、ちょっと気にはなるんだ。八桁ってことは最低でも一千万年だ。そんな時代にはまだ人間なんていないし、猿とかゴリラみたいなのがウロついているだけだろう。だからもしかすると、移動する年数より前に、日付か時刻を入力するのかなって思ったりもするんだ。それが入力されていなければ、出発の時と同じ時刻になる、とかね。ただまあ今回の場合、その辺は深く考えても仕方がないことだから……」


 ――これから戻れば、十五時までには出発できるだろう。

 ――絶対とは言い切れない。それでもここまでわかれば、やってみる価値は十分ある。

 ――20とだけ入れてから、長押しで数字を白くするんだ。

 ――そうしておけば、きっと智子は、昭和三十八年の三月十日に戻れるはずだ。

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