第3章  1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 6 タイムマシンと乱入者(2)

 6 タイムマシンと乱入者(2)




「それ、座るときっと、形が変わるんだと思うわ」

 外から顔だけを差し入れ、智子が真顔でそう言ってくる。

 正直、座るだけでも怖かった。それでもやるしかないと、意を決して浮かんでいるものに尻を載せる。するとその感触を尻に覚えた途端だ。予想を遥かに超える変化が起きる。

 サラッと尻を撫でられた気がして、頭から足裏まで何かが一気に纏わりついた。

 言ってみれば、飛行機のファーストクラスにあるような座席を、左右からグッと細くしたって感じか……身体にぴったり密着している割に、フワッとしていて圧迫感がまるでない。そんなのが後頭部から足先までを包み込み、なんともいい感じで気持ちいいのだ。

 もしもこんな状況じゃなければ、さぞかし快適な気分でいられたろうと思う。

 とにかくこれがタイムマシンなら、これこそが時間旅行のための座席で、その前方には操縦桿やら計器類があるはずだ。

 ところが目の前には何もなかった。丸みを帯びた銀色の壁がただあって、やはりうっすら光を発しているだけだ。もし、テレパシーとかで動くのであれば、なんであろうとここで完全にお手上げになる。ならば、伊藤にそんな力があったのか?

 ――いや、他に何かあるはずだ……。

 百年先の未来だろうが、人間にテレパシーなんて力が備わるわけがない。

 彼はそう確信し、上半身を少し浮かして前方の壁に目を向けた。それからさらに、顔を前の方へ突き出したのだ。するとその動きに合わせるように、いきなり目の前にボードのようなものが現れた。見れば壁の一部がせり出して、手を出せばすぐ届くくらいにまで伸びている。

 ――これだ……これがそうなんだ。

 一目見てそう感じられたのは、まさに思い当たる数字があったからだ。

 言ってみれば、小さな勉強机でも飛び出したという感じ。

 銀色の壁からせり出した平面に、「00000020」という八桁の数字が浮かび上がって見えるのだ。

 ――これが、二十年なんだ!

 このまま始動させれば、それだけ未来に行ってしまう。そこは二十年後の世界で、すなわち昭和七十八年ということだ。ただし、そんな未来に行ってしまうなら、この時代に残った方が智子にとっては幸せだろう。

 それにもし、ノストラダムスの大予言が当たってしまえば、人類にはあと十六年しか残されていない。そう考えればだ、二十年後の未来なんて、そもそもその存在自体が怪しいものだ。

 それではいったいどうすれば、過去のあの日に戻れるのか? そう考えれば考えるほど、不思議に思えてくるのだった。これが思う通りの数字であるなら、

 ――同じ日、同じ時刻にしか行けないってことなのか?

 八桁では、年号などを入力してしまえば、どうやったって時刻までは入れられない。

 ――となると、異なる単位を使うってことか?

 例えば今から二十年と一日なら、二十に365日を掛けて、さらに二十四時間をその数字に掛けるのだ。そうして出た数に、さらに一日分の二十四を足すと、175224という正数がはじき出される。そんなのを入れる可能性もあるが、それなら今、表示されている「20」という数字はどういうことか?

 きっとこれは、出発する年の同じ時刻、同じ場所にしかいけないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る