SF ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years
第2章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 4 昭和五十八年 坂の上(2)
第2章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 4 昭和五十八年 坂の上(2)
4 昭和五十八年 坂の上(2)
フナさんは五十五歳で勤めていた会社を定年退職。その退職金で児玉亭を購入していた。そして今ではグルメ雑誌にも掲載される繁盛店、〝モツ煮亭〟の店主となっている。
それからフナさんは、近所に残っている剛志の旧友たちへ、電話をかけまくって呼びつけるのだ。そうして一時間もすると、今やモツ煮亭の常連客となった同級生らが集まって、店の一角が懐かしの酒宴の場となった。
その中には、当時剛志が釈放されてから、さんざん悪態をついた輩も交じっている。
それでもきっと当人は、そんな事実など忘れてしまっているのだろう。ただただ大変だった、俺はずいぶん心配したと口にして、あの頃も変わらず味方だったような顔をした。
だからと言って、腹が立つということもない。
二十年という歳月はやはり大きく、懐かしさが心地よくてそれなりに楽しい。あっという間に三時間が経過して、彼は多少強引にモツ煮亭を抜け出した。
とにかく、暗くなっては困るのだ。記憶もずいぶんあやふやだったし、もしも見つからなければここに来た意味がなくなってしまう。
幸い、酔っぱらったというほどではなかった。それでも昼間の酒は影響したようで、もはや家を出る時の憂鬱な気分は跡形もなく消え失せていた。
火事のあった林……そこを訪れるということは、同時に智子のことを思い出すことになる。
毎日のように智子を捜しまわったあの日々は、三十六年という人生で一番辛いものだった。
そんな辛い日々が半年くらい続いて、ミヨさんを殴ってしまったあの日以来、彼は智子を捜すのをピタッとやめた。それ以降、林を見ていないし、あの丘へと続く急坂さえ一度だって上っていない。
あの日、林への入り口が遠くに見えて、智子はそのずいぶん手前を左に曲がった。
それはきっと、伊藤がそうしたからで、今となってはもうどうでもいいことだ。
とにかく、あの場所さえ見つかればいい。それだけを思って林に向かうと、いきなり予想外の光景が現れるのだ。
林の中へ続いていた道が、途中で跡形もなく消え失せていた。
それ以前に、林そのものがなくなっている。林だった辺りが高い塀で囲われ、遠くにお屋敷らしい建物だけがポツンと見えた。
きっとどこかの大金持ちが、この辺り一帯を買い占めてしまったに違いない。
――どうする? このまま諦めて、帰ってしまうか?
一瞬だけ、剛志はそんなことを思う。しかしそうしてしまうには、あまりに不可解なところが何から何まで多すぎた。
『おまえは伊藤か?』
紛れもなく、電話の相手はそう言ったのだ。
『それでは、智子はどこにいる?』
死んだというのが前提ならば、どこにいる――などと聞いてはこない。
それでは、智子は生きている?
ならば彼女は今もなお、自由の利かない生活を強いられているということか?
二人の名前を耳にして、次から次へとそんな疑念が浮かんでは消えた。
まさに、意味不明の電話だった。
声の主は伊藤の名を挙げ、さらに智子の所在を尋ねてきたのだ。
だからこそ、ここに来ようと思ったし、あの〝約束〟だけはなんとしてでもやり抜かねばならない。剛志は心に強くそう思って、まずは屋敷の主を知ろうと塀伝いに歩いていった。しばらく歩くと大きな門が現れて、大理石の表札に〝岩倉〟という名が彫られている。
では、岩倉という家主に説明したとして、納得などしてくれるだろうか?
素直にそう思う剛志だが、ほかに方法がないのだからやるしかなかった。
あとひと月と三日で、また、あの火事の日がやって来る。
それは同時に、智子が消え去って二十年ということなのだ。
――智子……おまえはいったい、どこに行ってしまったんだ……?
気づけば日が暮れ始めていて、さっきまでの心地よさは嘘のように消えている。
そしてあの日もそうだったように、いつの間にか雨は止んで、突き刺すような寒さが彼の身体を包み込んだ。
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