第104話 素材の遅れ
「来ない」
テーブルの上にずらりと並んだ盾を見て、ミカエルさんは頭を抱えていた。
修理の締め切りは今日の夕方。
なのに、修理の素材がまだ来ない。
素材到着が締め切り当日になるのだっておかしいのに、昼には届けるって話だったところが、もうとっくに過ぎていた。
ハインリッヒ公爵家なら独自の
ミカエルさんも、どうせ王家に先を越されるから、と言いつつも手をこまねいていた訳じゃなくて、ちゃんと素材を手に入れるために色々やった。それで何枚かはちゃんと修理できた。
けど、素材がなくてまだ修理できていない盾もある。
「素材くれるって言ったのにくれないんですから、あっちの契約違反じゃないですか」
「そう簡単な話ではない。ハインリッヒ家にもメンツというものがあるのだ。処罰はされなくとも、王命に
そういうものなんだ。
「せめて兄上がいて下さっていたら……」
「お兄さんがいたら解決するんですか?」
ミカエルさんのお兄さんってことは、ハインリッヒ公爵家の次期当主?
でも王位はお兄さんが継ぐって言っていたような?
てことは、ミカエルさんが次期当主?
そういえば、ミカエルさんに家族の事って聞いた事ないな。
自分がどこの誰か聞かれると困るから、あんまり聞いてこなかった。
「兄上は
公爵家に生まれたのに冒険者やってるんだ。すごい。
お金のためじゃないよね。
ノブレスオブリージュって言うんだっけ。力があるなら役に立て的な。
自分からは絶対選ばない選択肢だけど、私も、修理ができるから修理屋になって誰かの役に立ちたいって思ってるわけだから、全く違う訳じゃない。
そう考えると、
ステータス見たら勇者だったけど、魔王討伐なんてしません、って言われたら大変だったから、召喚されたのが田野倉くんでよかったよね。私は余計だったけど。
「今はいないんですか?」
「ああ。辺境で魔王の攻勢を押しとどめている」
「えっ」
ミカエルさんから魔王っていう言葉を聞いて、私はびっくりしてしまった。
魔王とか勇者とか、全然聞いてこなかったかから。
その言葉を聞いたのは、田野倉くんが出発した直後くらいまでだった。
冒険者ギルドなのに、全然様子が聞こえてこないのが不思議だったくらいだ。
「お兄さんって、たの――勇者様と一緒にいるんですか?」
「いや。勇者は別行動だろう。そのうち合流するかもしれないが」
「あ、そうか。たの――勇者様は自分たちで冒険しないといけないんでしたっけ」
「ああ。勇者が真の力に目覚めるためにはその過程が必要だ」
頭を抱えていたミカエルさんが、ふと顔を上げた。
「なぜそれをセツが知っている?」
「なぜって?」
「機密ではないが、王族か宮廷の上層部くらいしか知らないだろう」
「そ、そうなんですか~?」
私は首を傾げて何でもないフリを
え、そんな重要情報なの、これ?
「あ、
「そ、そうです! そうですよっ!」
お触れが出てたのかどうかは知らないけど、私はミカエルさんの言葉に飛びついた。
そうだよね。みんな知ってるはずだよ。
田野倉くんが魔王討伐に出発したことは大々的に発表されたんだから。
私が強い冒険者だったら、勇者の魔王討伐の手伝いしようって思うもん。
だって魔王だよ? 何する人か知らないけど、モンスターを集めて攻撃してくる人類の敵だよたぶん。手伝った方がいいに決まってる。
ていうか、ギルドのすごい人集めて、みんなで旅すればいいじゃんって話になる。
それじゃ駄目だってわかってないと、勇者の冒険が成立しなくなる。
私がお触れを知らないのは、冒険者じゃないし、ギルドの張り紙も読めないからだと思う。きっとランクの高い冒険者の人たちはもうみんな知ってるんだろう。
「えーっと、あー、それで、お兄さんがいれば素材が集まったのに、今はいないから、素材がないわけですよね」
田野倉くんの話を続けるとボロが出そうな気がして、私は話を変えることにした。
「そうだ。青真珠が不足している」
ずーん、とミカエルさんが沈む。
青真珠以外の素材は全部集まった。
水竜の鱗が一番貴重らしいんだけど、貴重なだけに使われずに色んな所で大事にしまってあって、かき集めれば何とかなった。
「青真珠を二個じゃなくて三個使えば、精霊の羽根と
青真珠一個
と、私のメモには書いてある。
「そういう簡単なものではないし、それなら今まで何度も試行されている」
だよね。誰だって思いつくもん。簡単な算数だ。
ミカエルさんみたいな魔導具師の人たちが一生懸命研究してレシピが出来上がってるわけで、ぽっと出の私がぱぱっと思いつくような事で解決するわけがなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます