第99話 書類提出
ガンテさんの
記憶に加えて、メモ、ギルドに報告していた全て当たりにし終えた
途中、数の
私はぐったりとテーブルに
疲れた。マジ疲れた。
数学の試験を終えた後のような疲労感だった。懐かしい。
顔を横に向けてみれば、気の毒そうにしているミカエルさんが見えた。
「次は、書類の作成です」
「まだあるのぉ……?」
私の口から
「はい。書類を作って提出しないといけませんから」
だよね。そうだよね。
なんとなく、推薦書の時みたいにガンテさんが作ってくれるって思いこんでたけど、そんなわけないよね。私の店のことだもんね。
ガンテさんは忙しいのに手伝ってくれてるんだ。
頑張らないと……。
テーブルに両手を突いて、腕立て伏せみたいに、ぐぎぎぎ、と頭を起こす。
修理の依頼か、投擲弾の選別の仕事があれば気も
いや、早く書類を作らなきゃいけないんだから、時間があるのはありがたいことなんだけどさ。
ガンテさんにははっきりと聞いてはいないけど、どうやら雰囲気から察するに、書類の〆切は明日のようだ。
「お疲れなら、ポーションを飲んだらいかがですか?」
差し出されたのは、薄い青い液体か入ったガラスの
「いえ、いいです。頑張れます」
甘ったるさを思い出して、私は固辞した。赤いのも青いのも、できたら飲みたくない。
私は顔を両手でパンッと叩いた。
「ではさっそく」
私の前に書類の
ガンテさんの字――だと思う――で表が書いてある。
表は真ん中で左右に分かれていて、それぞれ項目と金額を書くようになっている。
「これはミカエル様の帳簿です。こうやって、収支や物品の仕入れと消費を記録します」
一つ一つ、丁寧に説明してくれた。
けど、複雑すぎて私には理解できなかった。
複式簿記といって、お小遣い帳や通帳みたいに、ただ数字を増やしたり減らしたりすればいいものではないらしい。
魔石と素材を使う時には都度仕入れたことにして左の欄に材料と書いて、代金を右に書く。それが修理で消えたことになるから、今度は右側に材料、左側には修理費を書く。
「左は資産、右が負債です。同様に、左が費用で、右が売上です」
右が増えて左が減って、修理費が増えて現金が増えて
「左右には同じ金額を書くんです。最終的に合計も左右で等しくなれば正しいことになります」
売り上げが増えたら資産も増えて? 左と右、どっちも増えるの?
頭が大混乱だった。
文字を見てぱっと読み取れないのも理解の阻害になっている。
「仕方ないですね。税の優遇措置はなくなりますが、単式簿記で出しましょう」
ちんぷんかんぷんだった私を見て、ガンテさんは方針を変えた。
さらさらと書いてくれたお手本三枚には、それぞれ現金、素材、魔石と書いてあって、項目を書く欄も、金額を書く欄も一列ずつだった。
お小遣い帳と同じ形式だった。これなら書ける。
私はガンテさんが整理してくれたメモを元に、書類作成に取り掛かった。
途中で何度もパソコン欲しいって思った。コピペしたい。自動計算して欲しい。
あと鉛筆と消しゴムも欲しい。
項目を慣れない字で書くのは大変だし、計算は単純だけど数が多いし、羽ペンしかないから鉛筆で下書きすることもできない。
本当は間違えたら一から作り直しなんだけど、私があまりにも字を間違えるので、ガンテさんはぐしゃぐしゃ塗り潰すことを許してくれた。
結局その日だけじゃ終わらなくて、次の日、提出ギリギリまでかかって、私は作成を終えた。
「完成です」
最終確認をしてくれたガンテさんがそう言ったとき、私はスライムのように椅子から崩れ落ちた。
疲れた……。本当に疲れた……。
手はインクで真っ黒だ。書類には私の指紋がたくさんついていた。
ガンテさんが、とんとん、とテーブルの天板で書類を
定規で位置を測ると端っこにぶすっとキリで二つ穴を開け、ひもを通して
「では、提出しに行きましょう」
「はいぃぃぃ……」
ふらふらと操り人形のように起き上がり、私はガンテさんと書類の提出に向かった。
すぐそこだからと歩いて広場にある役所に行くと、カウンターの前にたくさんの人が並んでいた。みんな私と同じで駆け込みで提出するんだろう。
受付の人と
相談コーナーみたいなのもあって、書類を一緒に作成しているみたい。
なんとなく、確定申告の会場ってこんな感じなのかなと思った。もちろん行ったことはないれけど。
駄目だと言われたらどうしようとドキドキして順番を待ってたけど、私の書類はあっけない程簡単に受け取ってもらえた。
差し出した書類を受付の人がパラパラと見て、ギルドの身分証に書いてある私の名前と手元の書類の束を照らし合わせて何かを書き込んだら、それで終了だった。
ガンテさんに見てもらったから、形式に不備はなかったんだろう。
「内容に不審な点があれば問い合わせがきます。初回の提出ですから来るかもしれないですね。でも僕が確認したので大丈夫ですよ」
「何から何までありがとうございました」
「いえいえ。セツさんはこれから大変でしょうが、頑張って下さい」
「ありがとうございます」
私はそれを、初めての書類を完成させた私への、励ましの言葉だと受け取った。
だけど、それが思い違いだったことをすぐに知る。
戻った工房には、山盛りの投擲弾の箱が大量に運びこまれていて、書類が終わったのなら次はこっちを、とリーシェさんに申し訳なさそうに言われたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます