第64話 連動しているもの
整理しよう。
私の感覚が魔力の量と連動していないのは確かだよね。
不可解なことは二つ。
一つ目、私が感じる重さの違いはどこからきているのか。
そして二つ目、満タンになったはずの魔導具にどうして魔力が入っていったのか。
この二つはたぶん関係している。
だって、追加で魔力を入れた後、魔導具は重たくなった。
でも、その前に
違いはなんだろう。
うーん。全然わからない。
紙と鉛筆が欲しい。
こっちの文字は書けないけど、あっちの文字なら書けるんだもん。用意しておけばよかった。
追加で魔力が入っていったのが、何かのイレギュラー――それこそバグとか――だったら、考慮する意味はない。例外として取り除くべきだ。
まずはそれを確かめよう。
使うのは四番目の魔導具。三番目が例外だったら嫌だから。
魔力が尽きるまでタライの水を浄化させる。
魔力切れになった所で重さを確かめる。
軽い。
けど、一番目や二番目の魔導具ほど軽いかというと、そうでもない。
軽い順に並べたわけだから、初めから軽かったわけで、魔力を使ったから軽くなったかというと微妙だ。
次は魔力の充填。
今度は充填した途端に重くなった。
しかも、追加の充填はできなかった。二個目の魔石の光が消えなかったからだ。
やっぱりさっきのは例外だったのかな?
タライの水をざばりと捨てて、新しい水を水道の魔導具から追加して同じことを繰り返す。
計五回目の魔力切れ。
満タンまで充填した浄化の魔導具が、タライ何杯分の水を浄化すれば魔力切れになるのはわかった。タライに入れる水の量には誤差はあるけど、どうやらこれは固定だ。
重さは、それほど減ってない気がした。
充填してみると、ちゃんと重くなる。追加の充填はできない。
軽いままだったり、重くなったり。追加充填できたりできなかったり。
魔力切れになるたびに、結果は変わった。
それでもわかった事はいくつかある。
一つ目、充填したときに重くならないときは、追加充填ができて、追加すると重くなること。
二つ目、魔力切れまでの水の量は固定だけど、魔力切れの時の重さはまちまちであること。
一つ目だけ見れば、重さが足りなかった時は単に満タンにできてなかっただけで、やっぱり魔力量が重さに関係しているんじゃないかって思うんだけど、そうすると二つ目の、魔力切れの重さがまちまちっていうのが説明できない。
「ランダムなのかなぁ……」
私はぼつりと
でもランダムなら、充填したときに一定の重さまで増えるのはなぜってことになる。
魔石の魔力を移すと重さが増えるのは間違いない。だけどそれは、魔導具に充填されている魔力量とは関係がない。
軽くなる量はランダム。だけど、充填すれば重くなる。
ランダム……ランダム……あれ、なんか他にもランダムな要素ってなかったっけ?
「あっ!」
そうだよ! あるじゃん! ランダムに変わるものが!
私はさっそく確かめることにした。
タライに魔導具を放り込んで、水を入れていく。
満杯になっても水を止めずに、あふれさせたままにする。
魔導具は追加されていく水を浄化しようとして、ずっと光ったままになる。
魔力切れにするならこれが一番早い。
魔力が尽きた所で充填。
一発で重くなった。
失敗だ。
軽いままの満タンの魔導具が欲しいのに。
また魔力切れの状態を作り出して、充填。
今度は重さが少しだけ減ったままの魔導具ができた。
これをそのままもう一度魔力切れにする。
魔導具の重さはさらに軽くなった。
「お願い」
呟きながら、充填し直す。
「よしっ」
軽いままだった。
さらに続けて魔力切れと充填を行う。
「あっ」
今度は重くなってしまった。失敗だ。
再チャレンジしてみるけど、どうしても四回充填するまでの間には、重くなってしまう。
「……これは無理なのでは?」
十何回目かの失敗で気がついた。
軽いまま使い続けた魔導具を作りたい。
けど、この調子で続けても、限界まで軽くなりきる前に元の重さに戻ってしまう。
なら、最初から軽い魔導具を使おう。
私はテーブルの上に並べたままの五番目の魔導具を手に取った。
重さ的にあと四回? いや、五回は成功しなきゃ駄目かな……。
これで駄目だったら、今日はもうおしまいだ。今度また軽い魔導具を買いにいかなきゃいけない。
一回目、二回目、三回目、と連続して軽いまま充填することに成功する。
だいぶ軽いけど、やっばりあと二回くらい必要そう。
でも、この一個で失敗したら終わりなんだよね。
私は慎重に行くことにした。
コップにバトンタッチだ。
魔導具をコップに入れたまま、水を入れる、浄化、水を捨てる、重さを確かめる、の動作をループする。
何度か水だけ捨てるのに失敗しつつも、魔導具は少しずつ軽くなっていった。
そろそろだと思うんだけどな。
魔力が尽きるのが先か、限界まで軽くなるのが先か……。
先に魔力が尽きてしまったら、また充填しなきゃいけない。ここまできて、それで重さが変わってしまったら泣くしかない。
そしてその時は来た。
バキッ。
魔導具はコップの水を浄化しようとして――壊れた。
「やった!!」
私の感じる
損耗率が多いほど軽くなる。
そして――。
魔力を充填すると、重さが変わる。
それは、私が魔石の魔力を使って、損耗率を減らしていることを意味している。
二個目の魔石は魔力を追加で充填するためじゃなくて、損耗率を減らすのに使われているんだ。
一個目でできる時とできない時の差はわからない。
解明するには、検証が足りない。
ううん、重さが損耗率と連動してるって仮説だって、まだ完全に実証されたわけじゃない。一回しか確かめられていないんだから。
でも、たぶんこれで正解だ。
根拠なんてないけど、私はそれを確信していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます