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「素敵な洋服、安く買えてよかったですね! 絶対に関くんに似合いますよ」
二人用のテーブルを挟んで対面の席にちょこんと座る千波さんは、そう言ってチーズハンバーガーにぱくりとかぶり付く。
「千波さんのおかげだよ。選んでくれてありがとう」
千波さんの混乱状態が解けた後もいくつかの店舗を回り、最終的には洋服にあまり興味がなかった俺でも知っている大手の衣料品チェーン店に辿り着いた。そこでもいくつかの洋服を宛がわれ、千波さんの最終選考を無事に通過したのは白と黒のボーダーのTシャツと淡いベージュのリネンシャツ、そして黒のスキニーパンツという組み合わせだった。
「私が着てほしくて選んだので、お金は私が出しますね」なんて千波さんに言われたけれど、流石にそこまでお世話になるわけにはいかないので、慌てて支払いを済ませた。バイトはしていないが、これまでに親から貰った小遣いがそこそこ貯まっていたため、支払いに関しては特に問題がなかった。ここに至るまでに見てきた似たようなデザインの洋服と比べると、五分の一以下の金額で済んだことに感動しつつ、女の子に選んでもらうという行為がとても新鮮で、照れくさいような嬉しいような、そんな暖かい気持ちを覚えた。
「今度のデートで絶対に着てきてくださいね!」
眩しいくらいの純粋な笑顔でそんなこと言うもんだから、少しだけ意地悪したくなる。
「んー、どうしようかな?」
千波さんはえっと少し驚いた後、俺が冗談で言っていることに気がついて、にやりと笑みを浮かべる。そして、上目遣いのポーズを取って口を開く。
「うー……だめ、ですか?」
「ごめんなさい俺の負けです、絶対に着てきます」
俺の気まぐれなS心は千波さんの打算的な上目遣いで即、へし折られた。
「えへへ。約束、ですからね?」
千波さんは満足そうな顔でポテトに手を伸ばすと、少し長めのものを一本チョイスして一口ずつゆっくりと噛みしめながら食べていく。その食べ方がどう見ても小動物のそれで、広大な砂漠にひっそりと佇むオアシスのような癒やしを与えてくれた。
洋服を買い終えたタイミングがちょうど昼時と重なり、俺たちはどこにでもあるハンバーガーショップで昼食をとっていた。イタリアンなファミリーレストランとどちらにするか二人して最後まで悩んだが、千波さんの「久しぶりにポテトが食べたいかもです」の一言で、ハンバーガーショップに決定した。確かにこのポテトはまた食べたいと思わせる中毒性があるよな、何か変なものでも入っているんじゃなかろうか、とどうでも良いことを考えながら、同時に三本のポテトを頬張る。うん、千波さんの唐揚げには到底敵わないが、美味い。
「お昼食べた後はどうしましょうか? 文房具コーナーには行くとして……」
千波さんはオレンジジュースを少しだけ口にした後、うーん、と考え込む。昼食後のプランがスカスカであることは俺も若干気にしていた。目的もなく二人でぷらぷらと店内を見て回るのも、それはそれで楽しいかもしれないが、そうやって過ごすには時間が余りすぎているように感じる。少し考えて、千波さんに尋ねる。
「千波さんは洋服とか買わないの?」
「え、私ですか?」
その考えは頭の中に微塵もありませんでした、的な顔で驚く千波さん。
「うん。自分の買い物ばかりじゃなんか申し訳ないし。せっかくここまで来たんだから、見るだけでも見てみたら?」
「…………」
千波さんは少しの間考えて、何かを閃いたのか、あっと口にする。
「どうしたの?」
「……関くんに、私の洋服を選んでもらってもいいですか……?」
「え、俺が?」
恥じらいながらのまさかのお願いに今度は俺が驚く。
「俺、あんまり女の子の服とか詳しくないけど……」
「えっと、私がいくつか候補を選ぶので、その中でどれが一番似合うかを教えてくれるだけでもいいのですが……」
先ほどの打算的な上目遣いとは異なる、少し恥じらいが混じったような上目遣いで見つめられる。……てっきり選択形式の問題かと思っていたけど、何の手違いか選択肢が一つしか用意されていないようだった。一つしかない選択肢は、果たして選択肢と呼べるのだろうか。
「んー……わかった。それなら、なんとか俺でもできそうかな。その、ちゃんと万人受けするかどうかは保証できないけど……」
「本当ですか? やった、ありがとうございます! えへへ……」
逃げの姿勢をしっかりと残したままのつもりだったけれど、そんなことはお構いなしにとても嬉しそうな顔でに喜ぶ千波さん。そんな千姿を見ていると、どこからか妙な照れ臭さがこみ上げてしまい、誤魔化すためにエッグチーズバーガーを口に詰め込んで、それをコーラで流し込む。……うう、炭酸がきつい。
それにしても――これまでおしゃれに無頓着だった俺が女の子の洋服を選ぶ日が来るとは、思ってもみなかった。……うん、これは確実に運命が変わり始めている。上機嫌でポテトを食べる千波さんを見ながら、俺はそんな事を考えていた。
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