危機が目の前に迫っていました!
一気に火山を駆け下りていく私たち。そういえば、迷いの火山っていう名前がついていたにも関わらず、真っ直ぐ行って真っ直ぐ戻ってきたよね。本当に迷いやすい火山ってわけではなかったのかな?
無言が続いていて気まずかったのと気になったのとで、思い切ってシルヴィオに聞いてみることに。彼に話しかけるのはだいぶ慣れてきた!
「ああ、普通の人たちなら完全に迷いますよ。陸路であれ空路であれ、あの火山は基本的に人を嫌いますので」
「人を嫌う、ですか?」
火山が人を嫌う。例え話かと思っていたんだけどどうやら違って、本当に火山に意思があるらしかった。
気に入らない人が入り込むと、怒ってわざと道に迷わせるのだそう。……どういうこと? って思ったけど、それが事実なのだと言われれば納得するしかない。
この獣人の世界、みんなが魔法を使えるわけではないけど、色んな面でファンタジーだなぁ。山には神様がいる、みたいな話は日本にいた時も聞いたことがあるけど、それとはまた違うし。
「でも、幻獣人の何人かは火山に気に入られているのですよ。リーアンやカノア、オレもそれなりに気に入られているみたいです」
へぇー、なるほど。つまり、お気に入りのシルヴィオが案内したから、私やアンドリューがいてもスムーズに目的地に辿り着けたんだね。知らなかった。
そのことにお礼を言うと、シルヴィオは軽く首を振った。ユニコーン姿なのでたてがみがサラリと揺れ、私の手の甲を撫でる。
「いえ? オレだけじゃないですよ。エマ様も迷いの火山にとても気に入られていますから」
「え? そんなまさか」
「まさかもなにも……。この世界の自然が聖女様を嫌うなんてこと、絶対にあり得ませんよ。この世界にとって、聖女様は救世主なのですから」
聖女様なら、ね。私はフッと自嘲の笑みを浮かべる。
私はまだ自分を聖女だとは受け入れられていない。それなのに、世界に認めてもらえるものだろうか? そんなの、虫が良すぎる話だと思うんだよね。
かといって、自分がそんなすごい立場の人だなんてどうしても思えない。だって本当に鍵以外の価値がないもの。それだけで聖女様だなんて呼ばれるのは申し訳なさすぎる。
ただのエマとして、教会で穏やかに暮らすのが性に合ってる。でも、その生活を取り戻すためには頑張るしかないんだもんね。元の世界に帰れるかも、記憶が戻るかもわからないし……。
はぁ、なんだか色々と気が重くなってきちゃったな。私は誰にも気付かれることなく小さなため息を吐いた。
風景が変わってきた。気付けば私たちは草原を走っている。
ゴツゴツとした岩ばかりの場所から緑豊かな場所へ。平和な雰囲気がとてもありがたい。ドキドキと緊張していたさっきまでとは違って心に余裕があるからか、空を見上げて優雅に飛ぶアンドリューとリーアンの美しさを堪能することも出来ている。
ふふっ、すでに二択を外した私に怖いものはない……。向かう先が風鈴の渓谷、というのもいいよね。言葉の響き的にそこそこ穏やかだもの。
とはいえ、油断は出来ない。ここは私の常識なんて当てにならないのだから。
「! 軍勢がいますね……」
シルヴィオがゆっくりとスピードを落とし、立ち止まった。それから進行方向に目を向けて耳をピンと立て、そんなことを言う。
軍、勢? 怖いもの、早速ありましたね……!?
「くっ、気付かれたか!」
「えー、なになに? 戦かなー?」
その言葉にアンドリューやリーアンも反応し、同じ方向に顔を向けた。な、なんだかよくない状況っぽい。深刻な様子のアンドリューに比べてリーアンはどことなく楽しそうだけど。
「アンドリュー、どうしますか? オレたちなら強行でいけますけど、このままではエマ様が危険に晒されます。出直しますか?」
「いや、ここでカノアを解放しないとまずい。向こうもこちらの存在に気付いているだろうからな。我々が幻獣人様の解放に動き出していると勘付いたということだ。つまり、エマ様が狙われる。カノアが絶対に必要になる」
話の内容から察するに、この先にいる軍勢というのはたぶん現国王派の軍だよね……。もうこちらの動きに気付いてしまったんだ。いよいよ身の危険が迫っている感じがして身震いしてしまう。
「少し前から私の動きが怪しいと思っていたのかもしれないな。その上で、国王軍も私たちの狙いを先読みし、渓谷の前で張っていたとも考えられる。カノアの封印さえ解けなければ、我々に逃げ場はないからな」
バレるにしても、せめてドラゴンの解放をしてからが良かった。けど、それも含めて読まれていたってこと? やっぱり一筋縄じゃいかないね……。だって相手は大人で、国なんだもん。
「……あまり認めたくはありませんが、リーアンを先に開放して良かったですね。戦力がなかったらこの場を乗り切ることは難しかったでしょう」
「そうだな。エマのおかげだ」
突然、話がこちらに向いて驚く。えーっと、どういうこと? 首を傾げていると、シルヴィオがリーアンは戦闘に特化している幻獣人なのだと教えてくれた。えっ、すごい。
アンドリューは、戦えはするけどさすがに大人数を相手には出来ないし、シルヴィオもアンドリューよりは戦えるものの軍勢を押し返すのは厳しいという。だけど、リーアンならそれも可能らしい。いやいや、軍勢を相手に出来るってどんだけなの……?
「でもオレは怪我なら治せますよ! 首が落ちてもすぐ治療すれば元通りに出来ます!」
「首が落ちても!?」
そして思わぬところでシルヴィオの能力を知った。彼は治癒能力に特化しているのだそう。
にしても首が落ちても治せるって規格外すぎませんかねぇ!? 落ちてから二秒過ぎたらもう無理ですよぉ、って笑いながら謙遜しているけれど、そういうことではない。一瞬なら死んでも治せるっていうのがまずおかしい。常識、どこに行っちゃったのかな……?
「まっ、どーせ誰も怪我なんかしないから安心してよ! とにかく今はカノアっちの解放が第一ってことっしょ? リーくんにおまかせあれ!」
私がシルヴィオから話を聞いていたその横で、リーアンが陽気にそう宣言する。
軽い口調のその言葉とは違い、ニッと笑ったその横顔はもはや獲物を見付けた獣の様でゾワッと鳥肌が立った。まさか戦闘狂、とか……?
なんだか、心配になってきた。でもこの心配がリーアンに向けてのものなのか、国王軍に向けてのものなのか、自分でも判断は出来なかった。
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