第99話『やめさせてもらうわ 7』

 ラフターツインズ!!のふたりはマネージャーに送ってもらい、川に来ていた。


雨鐘「……えらい懐かしいとこに連れてきてくれはるねぇ。」


銀杏「覚えてる?」


雨鐘「当たり前やん。涙が出そうや。」


銀杏「久々にここに座って、ゆっくり話そうよ。」


雨鐘「……うん。」


2年前、芸人を夢見て上京した双子コンビ「らふたーついんず」が夢敗れた日、この川に涙を流した。


銀杏「……雨鐘の夢、捨てたくはないな。あの時……養成所のオーディションに落ちた後、ヤケクソで受けたアイドルの事務所オーディションで合格して以来、ブリリアントでアイドルをやって来たでしょ。双子で組ませてくださいってわがままいって、コンビでアイドルやらせてもらって、ついに、エイチフェス出場決定。でもあの日、私たちがほんとに行きたかったのは、M-1の決勝。キングオブコントの決勝。たしかに私は、お笑いのセンスに関して、雨鐘と比べると劣ってると思ってたし、今もそう思ってるよ。でも、漫才やコントが嫌だったわけじゃない。大好きだよ。漫才もコントも。……言ってること、矛盾してたりするかもしれないけど、私は、アイドルも、芸人も好き。けど、私に向いてるのは、アイドルなんだと思う。それだけの、話。」


雨鐘「うん。」


銀杏「雨鐘が、アイドルとしてやりたいことは何?」


雨鐘「……なんやろなぁ。あ、ファンの人と、たくさんお話してみたい。握手会とか、サイン会とか、やってみたいな。あとはやっぱ……おもろいことしたい。例えばさ、おもろい歌を歌うとか。いわゆる……トンチキソングっちゅうの?そんなんをさ。」


銀杏「いいやん、おもろそう。なんか案はあるの?歌の。」


雨鐘「あるで。」


銀杏「どんなん?」


雨鐘「たこ焼きの歌。最初は、普通の綺麗な歌や思わせんねん。せやけど、よくよく聴いてみると、なんと、たこ焼きのレシピを歌うてんねん!小麦粉と卵を混ぜます~とか、ジュージュー言うとります~みたいな。」


銀杏「え!めちゃくちゃおもろいやん!!雨鐘、歌詞書いてや。私、メロディつける!ラフツイでそれ歌お!芸人になりたい私たちの魂も、ちゃんとアピールしてこ!」


雨鐘「銀杏がメロディーかくの?」


銀杏「うん。作曲、やってみたかってん。」


雨鐘「へー!え、待ってや、待ってや、銀杏、メモして。」


銀杏「え、う、うん。ちょっと待って、スマホ出す。」


雨鐘「早う!逃げてまう!」


銀杏「待ってって!」


雨鐘「言うで、行くで。」


銀杏「うん。」


雨鐘「『さらりさらさらと水の音 そこへ合わさる こむぎこたまご』んで、それから……『ぴょんぴょん跳ねる油跳ねる 生地を流して蛸の舞い舞う』……どや!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る