第96話『やめさせてもらうわ 4』

 ラフツイを辞めたいと言い出した雨鐘あかね。夕飯のピザを食べ終えたふたりは、改めて話し合うことにした。


銀杏いちょう「……それで、どないすん?辞めたい気持ちは、もう固いの?」


雨鐘「うん。」


銀杏「もう1回、改めて聞かして。雨鐘がアイドルを……ラフターツインズ!!を辞めたい理由。」


雨鐘「銀杏とのレベルの差が辛い。銀杏が歌もダンスもどんどん上手になって、アイドルとしてのスキルをどんどん上げていってる横で、未だに音取りやら振り付けを覚えるのやらやってる私が、虚しい。銀杏の足を引っ張ってるみたいで、それも辛い。私はアイドルとしての才能はあらへんのやろうなぁって、毎日思って……これまで同じ道を手を繋いで歩いてきた銀杏が、私の隣で楽しそうにアイドルやってるの見るのが、めっちゃ、寂しい。それにね……私は、今でも芸人になる夢を捨てきれてへんねん。」


銀杏「……うん、そっか。」


雨鐘「……」


銀杏「……」


雨鐘「な、なんか言うてや。」


銀杏「……私はもう、芸人はやりたない。だって私には、芸人としての才能は、多分あらへんから。私たち、もう同じ道を歩くには、履いてる靴が違いすぎてるのかもね。」


雨鐘「……止めてくれへんの。さっきみたいに、辞めてほしないって、言うてくれへんの。」


銀杏「言われへんよ。だって、私は、芸人から離れた。芸人をやりたいって目ぇ輝かせる雨鐘の隣を離れた。せやから雨鐘も……アイドルをやりたい私の隣からは、もう離れてもええよ。双子やし、雨鐘のことめっちゃ大好きやし、ずっと雨鐘と一緒に居たいし、雨鐘とふたりじゃないならアイドルやりたないかもって、一瞬は思った。せやけどもう、私たちは、それぞれの人生を歩かなあかんとこまで、登ってきたんや思う。せやから……止めへんよ。」


雨鐘「……」


銀杏「あー……せやけど、やっぱ寂しい。涙出てくるわぁ。雨鐘が隣におらへん未来なんか、考えたくもないわ。おばあちゃんになるまで、ずっとずっと、隣に居られると思うとったもん」


銀杏の瞳から涙がしたたり落ちる。


雨鐘「……銀杏……泣かんといてや……」


雨鐘が銀杏を抱き寄せる。


雨鐘「ごめんね、お姉ちゃんが、離れたいとか言うから。ごめんね。」


銀杏「ううん、雨鐘には雨鐘の夢を追うてほしいって、思ってんで、ちゃんと思ってるんやで、なのに、なのに」


雨鐘「……エイチフェス2021までは頑張るから。歌とダンス、教えてや。」


銀杏「うん」


雨鐘「近いうちに、マネージャーに話そうね。」


銀杏「……ん。」


雨鐘「ねぇ、もし、マネージャーさんに、辞めちゃあきまへんって言われたら、どないしよう。」


銀杏「……ほんなら、辞めんとおったらええやん。」


雨鐘「さっきと矛盾してんで。」


銀杏「……辞めてほしないよ、当たり前やん、辞めてほしないけど、私に止める権利はあらへんから……あらへんから……今はそばにおって……雨鐘がおらへんと、生きていかれへん。」

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