107話 極楽浄土の耳舐め(オシオキ)タイム
『コイトおねえちゃーん』
私の名を呼ぶ愛らしい声が聞こえてくる。
『おねえちゃーん』
この私が間違えるはずもない。ちっちゃな頃から大好きで大切な、私の従姉妹の琴ちゃんの声だ。目を開けると私の目の前にはあの頃のままの——小動物みたいに小さくて人懐っこくてついつい甘やかしたくなっちゃう——そんな10年前のままの可愛い姿の琴ちゃんがいた。
『おねえちゃん、わたし……おねえちゃんのホットケーキたべたいなー』
小さな琴ちゃんは私に抱きつき、上目遣いでそんなおねだりをしてくる。お世辞にも美味しいとは言えない私お手製のホットケーキが、あの頃の琴ちゃんは何故かお気に入りで。私の家にお泊まりする時は私にホットケーキを作って!と私におねだりしていたものだ。
ほんと琴ちゃんも物好きだねぇ。もっと美味しいホットケーキなんてその辺でいくらでも売っているだろうに。
『えへへ、おねえちゃんおいしいよー。まいにちでもおねえちゃんのホットケーキたべたいよー』
幸せそうに私の作った歪なホットケーキを頬張る琴ちゃん。見ているだけで私もお腹いっぱいに、そして見ているだけで幸せになってくる。
『おねえちゃーん』
んー?なぁに琴ちゃん?
『わたし、おねえちゃんのことだいすきだよー』
あはは、それは嬉しいなぁ。
『だからわたし、コイトおねえちゃんのおよめさんになるねー』
物心ついた時から、何度も何度も口にしてきた琴ちゃんの可愛いプロポーズ。多分意味はよくわかっていないだろうけれど、それでも琴ちゃんの好意を感じられて素直に嬉しくなっちゃう。
お嫁さんね。うん、いいよー。こんなに可愛いお嫁さんなら大歓迎だよー。
『うれしいよーおねえちゃーん』
琴ちゃんのプロポーズを笑って受け入れると、琴ちゃんはこれ以上ないくらい蕩けきった顔で喜んでくれる。
『おねえちゃん、おいしいねー』
あはは、もー琴ちゃんったら褒め上手なんだから。そんなに褒めても何も出ないのに。
『ぁむ……ちゅ、じゅるっ……ホントに、美味しい……』
ああ、こらこら琴ちゃん。美味しいのはわかったから。そんなに音を立てて食べたら恥ずかしいよ。琴ちゃんも素敵なレディなんだしもっと上品に……
『は、む……ちゅ、ちゅぅぅう……』
……?あれ、琴ちゃん……?
『じゅる、じゅるるっ……!』
なに、食べてるの……?それ本当にホットケーキ……?
『おいしい、おいひい……♡』
ねえ琴ちゃん……何を食べてるの……!なん、で……私のお耳を……食べてるの……ッ!?汚いよ……それ、食べ物なんかじゃないんだよ……!?
『小絃お姉ちゃんは、本当に美味しいね……♡』
だ、め……やめ——
◇ ◇ ◇
「う、うわぁあああああ!!?」
艶美で、官能的で、そして背筋がゾクゾクする。そんな夢から飛び起きる。ハァハァ、と息を整えながら……覚醒と同時に今のが夢だったと理解出来て、ホッと胸を撫で下ろす。
よ、良かった……妙にリアリティがあったけど……夢で良か——
ずちゅぅうううう!
「ぃ、あ゛ぁあああああああ!!?」
「んー?ああ、おねえひゃん……起きたんだね」
そう思った直後だった。ぬるりとした感触が、私の耳を襲ったのは。人肌くらいの温かさと水気を帯びた生き物のような何かが私の耳をねっとりと這う。あまりの刺激に目の前にチカチカと星が飛び、脳を溶かし、衝撃が身体の芯まで駆け抜けてゆく。
反射的に逃げだそうと身体を反らそうとしたけれど、しっかりと抱きつかれて全く身体が動かせない。こ、これは……!?
「あ、ひ……へぁ……!?」
「ごめんごめん。ホントは起きてからやろうと思ってたんだけど……あまりにもお姉ちゃんのお耳が美味しそうだったからつい……つまみ食いしちゃった♡ごめんね」
まったく悪びれた様子もなく。ベッドに一緒に横になり、私に密着しながらそんな事を耳元で囁く琴ちゃん。どうやら琴ちゃんの言動から察するに……私が過去イチレベルのやらかしで気を失っていた間に、琴ちゃんは私のお耳を舐め舐めしていたらしい。
…………いやなんでだよ!?
「なん、で耳……舐め……!?耳掃除、してたはずじゃ……!?」
息も絶え絶えになりながらも必死に抵抗しつつ問いかける私。その間も抵抗虚しく琴ちゃんは私の耳をはむはむと食みながらこう答える。
「耳かきとかはおしまい。ここからは……私の趣味とお姉ちゃんへのオシオキの時間」
しゅ、趣味と……オシオキ……?
「ねえお姉ちゃん。お姉ちゃんはさぁ……まさかこの前の事をもう忘れたのかな?」
「な、なんの……ぁ、っ……話を……」
「あや子さんと入れ替わった時のアレコレだよ。まさかお姉ちゃん……自分はオシオキされないとでも思っていたのかな?」
…………あ。
「ホントはね、私も紬希ちゃんとあや子さんみたいに……お姉ちゃんと入れ替わって色々やりたかったんだけどね。お姉ちゃんったらお義母さんの入れ替わり装置を壊しちゃうんだもん。仕方ないから……他の方法でオシオキするしかないでしょう?」
「お、オシオキをしないという選択肢は……」
「ありません♪」
つい先日、うちのバ母さんの悪夢の実験であや子と精神が入れ替わり……そのせいで琴ちゃんと紬希さんを怒らせてしまう事件があったんだけど。事件後しばらく経っても琴ちゃんからオシオキされる気配がなかったから完全に油断していた……
「だから別のオシオキを考えていたんだけどね。なるべくお姉ちゃんを傷つけずに、それでいてお姉ちゃんに深く反省してもらえるオシオキってなんだろうなーって今日までじっくり考えて……思いついたのがこのお耳責めだったってわけ。お耳がよわーいお姉ちゃんならこのオシオキはとっても効果的だろうし。それに私もお姉ちゃんの調きょ…………特訓が捗るからね」
「調教って言いかけた!今調教って言いかけたよね琴ちゃん!?」
以前も琴ちゃんに『お姉ちゃんに悦んで貰いたくて』と張り切って耳責めされた事がある。あの時も大変気持ちよ……もとい、大変な事になってしまっている。
「(し、しかも今回は……耳掃除にマッサージまでされてただでさえ敏感な耳がより一層……)」
やばい、これはまじでヤバい……!?多分洒落にならない事になる気がする……!?
「ま、待ってくれ琴ちゃん……!?あ、あの事件はマジで私に非はないっていうか……ただ私は巻き込まれただけというか……!」
「うんうん、そうだね。お姉ちゃんは悪くないと思うよ」
「だ、だったら……!」
「でもね……私楽しみだったんだよ。お姉ちゃんと入れ替わるの。お姉ちゃんと入れ替わった時の為にお洋服とかオモチャとか、色んな準備をしていたのに……その夢をお姉ちゃんが潰しちゃったんだもの。これは……責任取って貰うしかないよね?」
あれ、これひょっとしなくても……あや子と入れ替わった事以上に。母さんの入れ替わり装置を破壊した事を怒っていませんかね琴ちゃんや……?
「ま、待ってくれ琴ちゃん!あの装置を壊したのは深い理由というものがあってだね!?…………いや、と言うか軽くスルーしかけたけど何を準備してたの琴ちゃん!?」
「大丈夫怖がらないで。確かに私の趣味兼お姉ちゃんへのオシオキも兼ねてるけど」
「け、けど……?」
「まるで極楽浄土に行っちゃうくらい、気持ちよくしてあげるから大丈夫」
「それ、全然だいじょうぶじゃな——ッ!!?」
必死の弁明も今の琴ちゃんには無駄だった。火照った吐息をふぅーっと優しく吹きつけられただけで私は黙らされた。
なんとか声を出すのは抑えられたけれども。今の私にはそれが精一杯。必死に堪える私をあざ笑うかのように、琴ちゃんの猛攻は続く。軽く耳に歯を立てつつ、歯と歯の間から飛び出した舌がチロチロと蛇のように耳の縁をなぞる。
それだけでびくっびくっと身体が震えて力が入らなくなっていって……
「ぅ、ぅぅう……」
「はぁ……♪ほんと、お姉ちゃんおいし……いつまでも、舐められる」
「ゃ、め……そんな、汚い……」
うっとりとした声を漏らしながら丹念に舐め上げる琴ちゃん。やめて貰えるようにそう抗議する私だったけれど、
「だいじょーぶ……汚いハズないでしょう?だって……ちゃぁんと私が耳掃除してあげたんだし」
小悪魔みたいな今の琴ちゃんにはまるで効果がなかった。
「(や、ばい……ほんとこれ……ヤバい……!?)」
耳はホントに自他共に認めるほどに弱いけど。危惧したとおり直前に耳かきに耳のマッサージまでされているからいつも以上に敏感になってしまっている私の耳。ちょっと吐息が当たるだけでも全身の毛が逆立ちっぱなしだし、直で触れられ直で舐められると意識が何度も飛びかける。異様に感度が上がりすぎていて……おかしくなっちゃいそう。
「(それ、に……琴ちゃんなんか、上手くなってない……!?)」
琴ちゃんに耳責めされる事自体は今日が初めてと言うわけではない。初めてじゃないから余裕で耐えられる……かと思いきや的確に私の弱いところをピンポイントで突いてくるわ、緩急を使って私に刺激を慣れさせないようにするわで……耐えるどころかもうすでに限界なんですが。
まさか前回の経験を活かしているとでもいうのか……!?成長している……だと……!?こ、こんなところで要領の良さと勤勉さを出さなくても良いのよ琴ちゃん……!?
「お耳ピクピク動いて……こんなに真っ赤になっちゃって……ああ、かわいい……お姉ちゃんかわいい……んちゅ、ちゅぅうううっ……ちゅ、んちゅ……じゅるるるる……ッ!」
「ぅあっ……!?あ、あっ……ひゃぁあ……!」
本腰を入れて私を攻めに来た琴ちゃん。耳をお口の中へとくわえ込み、その舌先を窄めて耳の穴へと深く突っ込んだ。舌の侵入と同時にずちゅり……と水音が響いた瞬間。必死に耐えていた私はあっさりと声を上げてしまって……
そんな私の声に反応して、手を……いや舌を止めるどころか『もっとその声聞かせて♡』と言わんばかりに琴ちゃんはより一層激しく耳を責め立ててくる。
「ああ、ダメ……可愛い……お姉ちゃん可愛すぎる……ね、もっとだよ……私と一緒にもっと気持ちよくなろ。もっと素直に気持ち良いを受け入れて。気持ちいい事だけ考えて」
耳かきして貰ったお陰で琴ちゃんの囁く声がいつもよりもハッキリ聞こえてくる気がする。
脳が、溶ける……そう錯覚しちゃうほど……琴ちゃんの声は甘くて……いつまでも聞いていたくなっちゃうくらい中毒性があって。
「おいしい、美味しいよお姉ちゃん……お姉ちゃんのお耳おいし……」
意識が朦朧としかける中、横目で琴ちゃんを見てみる。ついさっき見た夢とシンクロするように、無我夢中で私の耳をはむ琴ちゃんがいた。夢に見た幼い頃の琴ちゃんの顔が、今の大人びた琴ちゃんの顔に重なって……小さくて可愛い妹分にそういうやらしい事をさせているみたいな気分になって背徳感が半端ない。
そんな琴ちゃんを見ていると、パチッと目と目が合う。琴ちゃんは私を見つめ、にっこりと笑うとこう告げる。
「おねえちゃん、素敵な顔してる。おめめうるうるで、とろっとろにお顔が蕩けてて。涎まで垂れちゃってて……かわいい、可愛いよお姉ちゃん……♡」
「も、もぅ……ゆるひて……」
もともとこういう顔を見せたくないから耳かきとかされたくなかったと言うのに。結局今日も健闘虚しくこんな情けないお姉ちゃん失格の顔を見せる羽目になってしまう。
「これいじょうは、ほんと、もう……おかしく……」
情けなくて、恥ずかしくて。私は耳を責められながらもこう懇願してみたけれど……
「おかしくなって良いんだよ。……ううん。と言うよりも……お姉ちゃんをおかしくする為にやってる事だし」
「そんにゃ……」
「そもそもこれはオシオキだからね。抗議は受け付けませーん♡だから……もっとおかしくなって。ただただ私に甘えて。気持ちいいだけを受け止めてねお姉ちゃん」
「そんにゃあ……!?」
とっても優しい声で、とっても残酷に琴ちゃんは切り捨てた。
結局この後反対側のお耳もいっぱい苛められて。もう気持ちいい以外何も考えられなくなりかけたところでトドメと言わんばかりに『気持ちいいかな、『小絃』は』と、呼び捨てされて。
終わる頃には腰とか背中とか、意識しないで勝手にビクンビクンと跳ねちゃって……全身から色んな体液が噴き出して。そして意識は極楽浄土へと飛び去ってしまっていたのであった。
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