61話 お姉ちゃんたちは変態です
効率の良いリハビリを取り組んだらどうかという紬希さんの提案で、急遽プールでリハビリする事となった。突然だったにもかかわらず琴ちゃんに手際よく色々と準備して貰って紬希さんに連れられて。やって来たのは近くのとあるスポーツクラブの温水プール。
さて。受付でリハビリコースをお願いした私は、早速クラブのインストラクターを紹介されたんだけど……
「——ったく……仕事の一環だし、何より他ならない紬希と琴ちゃんの頼みだから仕方なく引き受けたけど。なーんでこの私が仕事の時までバカ小絃の面倒を見なきゃなんないのかしらね。何の罰ゲームよこれ」
「それはこっちの台詞じゃい」
そこで紹介されたのは、よりにもよって我が悪友のあや子だった。
「あーあ。何が悲しくてアホあや子の指導なんか受けなきゃならんのか……あや子の指導なんて受けたらロリコンが移るわ。チェンジ、チェンジを要求する。どうせ教わるなら綺麗で大人な魅力満載のお姉さま……具体的には琴ちゃんみたいな人に教わりたいわ」
「うっさい。チェンジ出来るなら言われなくてもこっちからチェンジしてるわよ。『今日来てくれたスイミングリハ希望の人、伊瀬君の知り合いなんでしょ?なら折角だしキミに任せるよ』って厄介者の変態を押しつけられて迷惑してるのはこっちなんだからね。どうせ教えるならちっちゃくて可愛い天使な子……具体的には紬希みたいな子を熱烈個別指導したかったわ」
着替えてプールサイドに辿り着いた私とあや子は、いつものように仲良くお互いに罵り合う。こやつめ……何も知らないまま好き放題言いやがって。今日私がここに来たのはリハビリが目的と言うよりも、働いているあや子の姿を見たいという紬希さんのささやかで可愛らしい意思を尊重してあげた結果だってのに。
……まあ、これ言うと紬希さんに悪いからナイショにしておくけどさ。
「……ま、とはいえあんたには一つだけ感謝してやってあげても良いわ小絃」
「あ?何の話さ」
なんて事を考えていると。不意にあや子がそう言い出した。……こいつが私に感謝だと?急に何を気持ち悪いこと言っているんだろうか。
「小絃が『水中リハビリをしたい』って言いだしたお陰で、うちの紬希が『だったら良いところを教えてあげます』ってうちのスイミングクラブを紹介してくれたし。『折角だし小絃さんの付き添いで久しぶりに水泳してみようかな』とか大胆にも言ってきたのよ。……これはつまり、紬希の貴重な水着姿を拝めるチャンスってわけ!これに関しては小絃GJ!今世紀最大の良い仕事してくれたわね!」
急に何を気持ち悪いこと言ってるんだろうかと思ったけど……案の定気持ち悪いことしか考えてなかったわこいつ。
「ふ、ふふふ……ふははは!紬希の水着よ!水着姿よ!待っていた、私はこの時をずっと待っていたのよ!これまで幾度となくプールや海に誘って、その度に恥ずかしがり屋な紬希に『恥ずかしいし人前で水着になるのはちょっと……』ってフラれ続けてたんだけど。本日ようやく紬希の水着が解禁されるのよ!今日はなんて素晴らしい日なのかしら!!!」
「おいそこのロリコン。やかましいし迷惑だし気持ち悪いし近くに居る私まで変な目で見られるから、興奮しないでくれない?」
プールサイドで興奮して叫ぶあや子になんだなんだと他のお客様からの視線が集まる。皆様、旧友が大変な変態で申し訳ございません。
「ここで興奮せずしていつ興奮するって言うのよ小絃!長年着て貰いたいと思いつつも機会が無くて半ば諦めていた悲願が、今ここで達成されるのよ!?必死に土下座して頼み込んだ甲斐あって、私が選んだ水着を紬希に着て貰えるのよ!?これ以上の悦びが他にあるとでも!?」
「紬希さん……こんなロリコンの
今日は琴ちゃんと紬希さんと一緒にこのプールにやって来たけれど……プール用車いすの使用についての説明とか今日やる水中リハビリに関しての簡単な説明が必要だったせいで二人とは別の更衣室で着替える羽目になった私。だから二人の水着がどんなものなのかまだ私は知らない。知らないけれど……
だがしかし。見なくてもわかる。賭けても良い。こいつが選んだ水着とか、絶対碌でもない物のハズ。
「何よ小絃、そういうあんただって琴ちゃんに選んで貰った水着を着てるじゃないの。人のこととやかく言えた立場じゃないでしょうに」
「……な、何故これが琴ちゃんに選んで貰った水着だってわかるのさ?」
何も言っていないのにあや子は一目で今着ている水着が琴ちゃんに選んで貰ったものだと言い切る。こいつといい母さんといい、なんで変なところで察しが良いんだろうか……?
「そりゃわかるわよ。だって小絃が選んだものにしてはセンスが良すぎるじゃない」
「おい貴様、その理屈だとまるで私がファッションセンスの欠片も無い女だって言われているように聞こえるんだが?」
「まったくもってその通りでしょうに」
失礼な奴め……まあ、琴ちゃんに比べたらセンスは無いのは自覚してるけどね。今回琴ちゃんに選んで貰ったのはトップスとボトムスが別れた所謂セパレートタイプの水着。見た目がおしゃれなのは勿論の事、水の中でも自由に身体を動かしやすく、それでいて10年前の事故で出来た傷を違和感なく絶妙に隠せるようにしたいという琴ちゃんの気遣いが光るチョイスだ。
ちなみに心底どうでも良い余談だけど。あや子はスポーツインストラクターらしく競泳水着を着ている。……このアホを褒めるのは癪だけど。相変わらず手足がすらっと長くてかっこよく着こなしている。学生時代から女の子にモテるのも無理はないって感じだ。これでロリコンの変態じゃなければもっとかっこよかったんだけどね……
「しっかし……琴ちゃんが選んだ水着には間違いないんでしょうけど……その割に琴ちゃんのチョイスにしては妙に控えめで無難よね。あの子の事だし、私てっきりもっと自分の性癖に正直になって業の深い水着を小絃に着せるんじゃないかと思ってたんだけどなぁ。大胆で過激なビキニとか、あえて可愛さを重視してのスク水とかさ」
「…………は、ははは……あや子は琴ちゃんをなんだと思っているのやら……」
訝しげに首を傾げるあや子を前に、乾いた笑いを溢しながら目を逸らす私。言えない……家を出るギリギリまで『小絃お姉ちゃんにはこっちの水着も絶対似合うと思う』と力説されて超過激な紐としか思えないビキニとか母校のスク水とか着せられそうになってたとか言えない……
「だ、大体あや子考えてもみなよ。私……一応はあや子と同い年で、そうでなくても肉体年齢だって18歳で色んな意味でギリギリなんだよ?ビキニはともかく……この歳でスク水着るとかとか常識的に考えてあり得ないでしょうに」
必死に誤魔化すようにそうまくり立てる私。するとそんな私の背後から……
「…………そうですよね……小絃さんの言うとおりです……二十歳も過ぎて……スク水着るとかあり得ないですよねすみません……」
「へっ?…………って、紬希さんいつの間に……?」
一体いつの間に来ていたのか。今日私をこの場に連れてきた紬希さんが、今までに無いくらいローテンションで私の後ろに立っていた。
そんな彼女は清楚な見た目によく合った、おとなしめの紺のワンピースタイプの水着を…………って、いや待て……よく見たら……これは……まさか……!?
「す、スク水……?」
「……二十歳過ぎの女のスクール水着姿なんて、お見苦しいものを見せてしまってすみません小絃さん……」
「あっ……い、いやその……い、今のは言葉の綾で……」
彼女が着ているのは他でもない。女子の皆も一度は着たことがあるであろう……学校指定のスクール水着姿だった。ご丁寧にあや子の字で『1ねん いせ つむぎ』なんて布を縫い付けられた……紛れもないスクール水着姿だった。
い、いかん……紬希さんの事を貶すつもりなんて一切無かったのに気まずいぞコレ……と言うかあや子はホントにアホじゃないの!?なんてものを自分のお嫁さんに着せてんだよ!?
「え、えと……その……!だ、大丈夫です紬希さん!と、とてもよく似合っていますよ……!」
「……ありがとうございます。でもね、小絃さん。この場合……似合っているのが問題だと思うんですよ……」
「……すみませんでした」
「……いいえ。小絃さんは悪くありませんのでお気になさらず……」
フォローしたつもりが余計にへこませてしまった……なまじ紬希さんの場合、スク水着ても一切違和感が無いから凄い困る……な、何にも言えねぇ……
「似合う!?バカ言わないで頂戴小絃!そんな陳腐な一言で済まされるわけないじゃない!紬希と同じくらいの年齢の子が着ちゃうと狙ってる感が否めないでしょうけど……純粋無垢で清楚でミニマムな紬希にはそんなの関係無し!むしろただでさえ愛らしい紬希の良い意味での幼さが、これを着ることにより相乗効果を生んじゃって萌える……ッ!スク水と言えば露出度が低くて地味という印象があるかもしれないけれど……逆よ逆!ぴっちりと包み込まれ圧迫された少女の……紬希の肉体美が強調されて……めちゃくちゃエロい!エロいわ紬希!特にそのちっちゃなおっぱい……スク水越しになめなめしてあげたいわぁ……!ああ、もう……紬希のスク水、世界一ぃいいいいい!!!」
「あや子ちゃん、ちょっと黙ってて……それ以上騒ぐなら離婚も辞さないから」
「あ、紬希!折角ならこの浮き輪も使って頂戴!そうすれば更に紬希の魅力が倍増しちゃうからっ!」
「黙っててって言ってるのに…………(ボソッ)今日の夜は、覚えてなさいよあや子ちゃん……」
そしてこんな罪深いものを自分の嫁に着せやがった張本人はと言うと。反省するどころか舞い上がり人目も気にせず紬希さんのスク水を褒め(?)称える。
紬希さん……遠慮しないでこんなアホとはさっさと離婚しちゃって良いと思いますよ……
「ったく、我が悪友ながら情けない。いくら自分の惚れた相手の水着姿だからって何をそんなに興奮しているのやら」
「……ほほう?」
そんな私の嘲笑混じりの一言に、舞い上がっていたあや子はムッとした顔を見せる。
「……言ってくれるじゃないの小絃。じゃああんたは、私と同じような状況になっても取り乱さないと言うのね?」
「ハハッ、当然でしょ。アホのあや子と一緒にしないで貰いたいね」
「……ほうほう。じゃあ小絃。あんたは……あれを見ても同じ事が言えるのね?」
「あれ?あれって何…………を…………」
そう言ってあや子は私の背後を指さす。一体なんだと釣られて振り返った先で、私の目に映ったのは——
「ごめん小絃お姉ちゃん。着替えに手間取っちゃって……お待たせ」
「…………」
——そこにいたのは、まさに水際の魅惑のマーメイド。大人なビキニ姿の琴ちゃんだった。見る者全てが思わず感嘆のため息を漏らしてしまうほどの抜群のプロポーションが、ダイナマイトボディが……薄く露出度の高い布きれに心許なく包まれていた。
ああ、ああ琴ちゃん……ちょっと見ない間にこんなにも立派に……色んな意味で大きくなって……!その実り多きお胸も、引き締まったウエストも、お尻も……素敵すぎてお姉ちゃんどうにかなっちゃうそうだよ……!健康的な肢体に、白く美しい肌。相反する黒のビキニがよく映えるし、おまけに普段は降ろしてる長い黒髪をまとめてて……そこから見えるうなじがたまんなくて…………マジで、どうにか…………どう、にか……
あ、やばい……ホントにこれはヤバい……
「そ、それで……どうかなお姉ちゃん。お姉ちゃんに喜んで貰えたらと思って……ちょっと気合い入れてみたんだけど……」
「…………」
「……?お姉ちゃん、どうかした——」
「(コヒュー)……と、とっても……(コヒュー)……よく、にあってるよ……(コヒュー)ことちゃ……」
「って、小絃お姉ちゃん!?どうして私を見た瞬間過呼吸を起こしてるの!?一体どうしたの!?」
「こ、小絃さん!?またそんなに鼻血を出して……す、すぐに止血しないと大変な事に!?」
なんとか水着の感想を言い終わると同時に、プールサイドの地に伏す私。お、おかしいな……リハビリに来たはずなのに、どうして私は出血多量と過呼吸で見事に死にかけているんだろうか……?
「ほーれ見たことか。あんたも所詮同じ穴の狢よ」
意識を失いかける間際。悪友のそんな一言が妙に耳に残っていた。
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