シャーロット最後の事件?
第118話 シャーロットとジャクリーン
シャーロットの家に行ったら、なんだかとんでもない光景を見た。
家の前で二人が言い争っているのだ。
片方はブルネットの髪を結い上げた、見慣れた長身の彼女、シャーロット。
もう片方は、ストロベリーブロンドの髪をツーテールにしたやはり長身の女性……ジャクリーン!?
「あたしを罠にはめたつもりだろうけれど、さっさとやめな! あんたの命が危ないよ!」
「脅迫ですの? つまり効いているということですわね! その証拠に本人が自ら出てきていますもの。だーれがやめるものですか! 終わりですわよジャクリーン!」
「はあー? あたしが終わり? ここで? ありえないありえない、ありえませーん。シャーロット、絶対にここで潰すから。今まではあたしの趣味の邪魔をする面倒なのがいたなー、と思ってたけど、完全に殺すリストに入ったから」
天下の往来で何を物騒なことを言い合っているんだ。
馬車が到着して、ナイツが御者席から飛び降りると、ジャクリーンは脱兎のごとく逃げ出した。
速い速い。
一瞬で見えなくなった。
「はえー」
ナイツが呆れて呟く。
さすがの彼も、追いつくのを諦める速度ということか。
「ジャクリーンが一番恐ろしいところって、あのとんでもない逃げ足よね。それでシャーロット、なんでジャクリーンと言い争いしてたの?」
「それはですね、ジャネット様。わたくし、前々からジャクリーンと本格的に対決すると言っていたでしょう?」
「言ってた言ってた」
「その準備が着々と整っていますの。具体的には、あらゆる犯罪にジャクリーンの関与を疑うように憲兵に依頼をかけて、そこから事件の大本を辿っていますのよ。最近、ちょこちょこ発生する事件をわたくしとジャネット様が解決してるでしょう? おかげで、憲兵隊も余裕ができましたの」
なるほど、憲兵隊の余裕を、ジャクリーン捜索に振り分けてもらっているわけだ。
治安維持を仕事とする人々が、ジャクリーンの存在を意識することで、自然と当のジャクリーンが行動しづらくなっていくわけね。
「それであんな脅しに来たってわけ? 私たちも舐められたものね」
「彼女としては、口にしたことはただの脅してはなくて実行するつもりでしょうけれどね。これはつまり、なかなか都合のいい展開になってきたということですわ」
シャーロットは遠くに合図をしている。
振り返ったら、下町遊撃隊の子たちが頷いているところだった。
次の作戦に移るんだろうか。
きっと、下町遊撃隊はデストレードのところへ報告に行くのだろう。
「紅茶を淹れますわ! 今日はとびっきりの。多分、しばらく飲めなくなるでしょうから」
「なになに? どこか遠くへ行くの?」
「遠くへ行く必要が出てきますわよ。今日はナイツさんも上に来たら?」
「へいへい」
こうして、シャーロットが淹れた紅茶を飲むことになる。
いつものことなんだけれど、明らかに紅茶が美味しい。
「えっ、こ、これは……」
「エルフェンバイン最高級の茶葉、ロイヤルエルフですわ」
「ひとさじで金貨一枚はするっていう、あの……!?」
「それは俗説ですわね。正確にはこのひと缶で金貨一枚ですわよ」
「なーんだ。……十分高いんだけど」
金貨一枚って、庶民の家が一ヶ月暮らせる金額だ。
うちがメイドに払う給金も、一ヶ月で金貨一枚。
ナイツは三枚もらってる。
つまりこの紅茶、それだけとんでもなく高い。
「この茶葉缶が、メイド一人分……」
何度も飲めると考えると、それだけのお値段を出す価値はあるんだろうけど。
うちの紅茶なんて、この茶葉缶よりもふた周り大きい缶で、お値段は銅貨八十枚なんだけど!
銅貨百枚で銀貨一枚になって、銀貨が百枚で金貨一枚ね。
一日は銀貨三枚で暮らせる。
「あー。お嬢がお金の話で頭がぐるぐるになっちまった」
「辺境も財政が厳しいって聞きますものねえ」
「蛮族とやり合ってる時期が終わったから、ちょっとはマシになってるんだぜ。だが、お嬢は根っから貧乏性が染み付いてるからなあ」
なんて人聞きの悪い。
お金は大事でしょ。
「お話をもとに戻しますわね。つまり、ジャクリーンがさっき言っていたことはただの脅しでは無いということですわ。すぐに実行に移されるでしょうね。それを先読みした上で、わたくしは憲兵隊のみならず、あちこちに手を回していましたの」
シャーロットは、どこからか分厚い紙の束を取り出してきた。
その全てが、ジャクリーンと対決するための計画を記したものらしい。
「お陰で、最近は寝不足でしたの!」
「あー。シャーロット疲れてたもんねえ。じゃあ、この間のベルギウスの事件はいい息抜きになったでしょ」
「ええ、そりゃあもう! 楽しかったですわ!」
シャーロットはにっこり。
あの日の夜は熟睡できたらしい。
事件を解決するとストレスが減って熟睡できる女、シャーロット。
「それじゃあ、この紅茶は美味しく飲まないとね。元気なシャーロットの顔を見ながらなんて、久しぶりだもの」
お高い紅茶缶を触るのをやめて、淹れてもらった一杯を楽しむ私。
うーん、すごくいい香り。
美味しい。
お高い紅茶は違うなあ……。
「もし気に入ったのなら、缶の残りは差し上げましてよ?」
「そう? ありがとう……えっ!?」
私は目を剥いた。
シャーロットがお高い紅茶をくれる!?
それって何。
何か、縁起でもない予感がするんだけど……!
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