第107話 ここにも! ドロドロ恋模様

「ああ、有名ですよ。あのパーティの中で三角関係があったのは」


 冒険者ギルドにやって来た。

 そこのベテラン職員に尋ねてみたら、こんな情報が飛び出してきたわけだ。


「やっぱり」


 にやりと笑うシャーロット。


「色恋沙汰でしたか。よくあるんですよねえ、こういうこと」


 デストレードは、そういう事件にちょこちょこ遭遇するそうで、落ち着いた様子だ。

 私はと言うと……。


「ええっと、つまりこれって裏に恋愛が絡んでいるから、奥方が旦那さんを殺したっていうのが補強されただけじゃないの?」


 当然、こんな考えになる。

 だって、それはつまり奥さんの方は、旦那以外に好きな人がいたということではないのか。

 その人と添い遂げるなり、なんなりがあったから旦那を殺してしまったのでは?


 私がもっともと思われる推理を口にしたら、シャーロットがにっこり微笑んだ。


「ジャネット様も推理をされるようになってきたのですね! うんうん、いいことですわ。推理というのはそうやって、まずは情報をきちんと洗い出してもっともであろう理由を導き出しますの。そして、その理由に粗が無いかどうかを検証しますのよ」


「で、粗が無ければ私ら憲兵隊が逮捕するんですがね。どうもこのシャーロットは、それで終わらない。無駄に場を引っ掻き回しに掛かるんだ」


「あらデストレード! わたくしは常に、隠された真実を暴き立て……おほん。真実を白日のもとに晒し、正しい裁きが行われるように助力をしているだけですわ」


 今、暴き立てるって言おうとしたな。

 私とデストレードの目線が生暖かいものになり、シャーロットへ注がれる。


「おほん! ええと、ですけど職員さん。その奥方が恋していた男性は、遺跡に挑んだ後に戻っては来なかったのでしょう?」


「ええ。亡くなられたのだと聞いています。それで彼女は、パーティーリーダーであった彼と結婚したと」


 三角関係だ。

 というか、旦那さんが奥方に横恋慕してて、奥方のお相手が死んだのをいいことにかっさらったみたいな感じかな?


「それ、やっぱり奥さんが怪しいんじゃ……」


 私にはそれ以外の考えが浮かんでこないな。


「ひとまず、せっかくギルドに来たのです。冒険者の食事を楽しんで参りましょう!」


 シャーロットがポンと手を打って提案した。

 冒険者の食事と言われると、確かに気になる。


 どうしてシャーロットが、ここで食事をして行こうという話になったのかは分からないけれど……。

 冒険者ギルドは、食堂を併設している。

 ここで仕事終わりの冒険者たちが、食事をしたり酒を飲んだりする。


 冒険者ギルドは、冒険者たちへの仕事の仲介手数料や、手に入れた品物の鑑定手数料などで稼いでいるんだけど、食堂運営で得られるお金もまた、貴重な運営資金らしい。

 シャーロットが、さっきのベテラン職員に声を掛けた。


「せっかくですもの。ギルドにいる皆様に、このシャーロットがビールを一杯奢りますわ!」


 一瞬しんとなる冒険者ギルド。

 そしてすぐに、うおおおおおっという冒険者たちの歓声に包まれた。


「いいぞ貴族のお嬢さん!」


「ただ酒ほど美味い酒はねえぜ!」


 各テーブルに、なみなみとビールが注がれたジョッキが行き渡る。

 ビールというのは、基本的にはエールと作り方が似てるのだけど、香り付けにハーブを使っているのが違う。

 ハーブの効果で泡立ちがよく、不純物も濾しているからゴクゴクと飲める……らしい。私は飲んだことないけど。


 美味しそうに飲んでるなあ。

 父のエールをちょっと味見させてもらったことがあるけれど、あれはとても、美味しいなんて言えるものじゃなかったけどなあ。


「ふふふ、ジャネット様、ビールは味わうのではなく、のどごしを楽しむんですよ」


 どさくさに紛れて、自分もビールを手にしているデストレード。


「勤務中じゃないの?」


「憲兵隊の隊則に、飲酒して仕事をしてはいけないとは書いて……書いていますが、今は休憩時間なので、酔いを感じない程度の量なら問題ありませんよ」


 ごくごくやっているデストレード。

 ええー、いいの?


「ご心配なく。彼女、とっても強いんですのよ。これは今回、事件の解決をわたくしに任せて自分の頭は動かさない気ですわね……!」


「ええ。実は本日、私は休出なんですよ。なので仕事と休暇を同時にやらせてもらいます」


 休日出勤なら仕方ないのか……?

 私は首を傾げていると、外から『わふーん』と声が聞こえた。

 そうだった、外にバスカーを繋いでいるのだ。


 私は彼の様子を見に行くことにする。

 その間に、シャーロットは冒険者たちから情報収集を行うそうだ。


「もうちょっと待っててね、バスカー」


『わふー』


 もふもふしながら、ギルドで買ったお肉を食べさせたりなどする。

 そうしていると、バスカーが顔を上げた。


『わふ』


「うん? 誰か来るの?」


 振り返ったバスカーの視線の先。

 ギルドから出てくる、大柄な人影があった。

 ちらりと私たちを見る。


 マントに背負い袋に、武器らしきもの。

 姿からして、戦士のような役割を果たす冒険者だと思うのだけれど。

 ただ、気になったのは、彼の右足の膝から下が義足になっていることだった。


「ギルドは犬を飼ったのか……? まあいいか」


 それだけを呟いて、彼は立ち去っていった。

 何だったのだろう……?


 その直後に、シャーロットが飛び出してきた。


「しまった! かつてパーティにいた人物が、片足になって戻ってきたという情報がありましたのに! 逃げられましたわー!!」


「どうしたのシャーロット? らしくもない」


「生きてましたのよ。奥方の愛した殿方が」


「はい?」


 お話は色恋沙汰のまま、混迷度合いを深めていくのであった。

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