古代遺跡の宝冠事件
第67話 消えた宝冠(の一部)
特に用事があるわけではないのだが、その日は全くやることが無かったのでシャーロットの家に行くことにした。
アポイントを取らないのは失礼だと思ったので、途中で下町遊撃隊の子を発見し、言伝を頼む。
お礼にみんなで食べるよう、お菓子を手渡した。
「ちょっと一休みしてから行くんですかい?」
「ええ。馬車があの子たちより先についたら、アポイントの意味がないでしょ。でも、シャーロットのことだから謎の推理で私たちが来ることを察しているかも知れないけど」
「あり得ますな」
ナイツが笑った。
下町に入るか入らないか、という辺りで、馬車を止めてのんびりする。
日々、事件に首を突っ込んでいると、こういうぼーっとできる時間がとても大切になってくるものだ。
エルフェンバインの王都は、本当に事件が多い……。
今までの私は、日常の中で次々に生まれていたこういう事件に気付いていなかったんだろう。
まあ、私はすべての事件を解決したいという人間でもないし。
シャーロットとともにいるこの時間だけ、事件を関わる日々を送る……くらいでちょうどいいと思っている。
「さて、そろそろいいかな。行って」
「よしきた」
馬車が走り出した。
下町の人々が、駆け抜けていくワトサップ家の馬車を見ている。
その目には、珍しいものを見るような感情はない。
見慣れてるもんね。
「またシャーロットさんが事件に首を突っ込むのか」
「あの人も本当に好きねえ。でも、お陰で楽しい噂話ができるから感謝しなくちゃ」
そんな声が聞こえてきた。
私とシャーロットの、冒険にも似た日々は、下町の人々にとっては娯楽になっているらしい。
「そのうち、まとめて本にでもしようかな」
私は呟いた。
実はシャーロットと出会ってからの、様々な事件のことは日記に書いてあるのだ。
ページをめくれば、どの事件のこともすぐに思い出すことができる。
本にしてみる。
それはなかなか素晴らしい考えのような気がした。
とりあえず、これはシャーロットに提案しなくては。
よし、彼女の家に行く理由ができたぞ。
向かう途中で理由ができるっていうのも、変な感じだけど。
シャーロット邸の前には、私たちのものではない馬車が停まっていた。
いつもの馬なし馬車ではない。
「依頼人が来てるみたい」
私は馬車から降りると、シャーロット邸のノッカーを鳴らした。
ひとりでに扉が開く。
家の番人たる魔法生物、インビジブルストーカーが開けてくれたのだ。
この魔法生物からすると、私は顔パスらしい。
ナイツも後に続き、目に見えない魔法生物に親しげに話しかけている。
私を待っている間、基本的にこの魔法生物と一緒なので、仲良くなっているらしい。
インビジブルストーカーからも返答らしきものがあるし。
会話が成立してる。
さて、家に通してくれたということは、シャーロットに会っていいということ。
私は二階に向かった。
そこはシャーロットの部屋。
そこそこ大きなテーブルがあって、シャーロットと依頼人らしき男性が向かい合っていた。
「まあ、ジャネット様! きっと退屈なさっておられるだろうから、すぐに来るだろうと思っていましたわ!」
「やっぱり推理されてた」
私は当たり前みたいな顔をして、シャーロットの隣に腰掛けた。
依頼人の男性がびっくりしている。
そしてすぐに、ポンと手を打った。
「ああ! あなたがシャーロットさんの相棒でいらっしゃる、ワトサップのご令嬢!」
「ええ。静かにしてますから、お気になさらず仕事の話をなさってくださいな」
私はそう告げると、依頼人の口が開くのを待った。
ところがシャーロットが立ち上がり、私のお茶を淹れてくれるではないか。
お陰で話は中断ということになった。
お湯から沸かさなければならないので。
結局、全員分の紅茶が新しくなったところで、依頼人の話が再開した。
内容は、こう。
依頼人はゼニシュタイン商会で、融資部門を担当しているグロッサー氏。
彼は先日、大口融資の依頼を受けた。
お客はガキーンと名乗る男性で、「王都から橋を架ける事業を受託したが、資金が振り込まれるまでは動けない。当座の運営金として融資をしてほしい」という話だった。
その担保として、見事な宝冠を預かったのだそうだ。
「恐らくは古代遺跡から発掘されたものでしょう。遺跡の中には、遠い空の彼方からやって来たものもあると言います。あれはこの世のものではない作りだった。きっと、それです」
ということで、グロッサー氏は融資を引き受けることにしたそうだ。
彼の一家は、ゼニシュタイン商会に間借りをしてその一角に住んでいる。
彼自らが、この宝冠を監視できるというわけだ。
だけど、昨夜のこと。
突然「ウグワー!」と叫び声がした。
驚いたグロッサー氏が家を飛び出すと、宝冠を手にした、グロッサー氏の長男、バロッサーがいたそうだ。
「あいつが宝冠を盗もうとしたんです。例え実の息子でもやっていはいけないことがある。私は憲兵を呼んで、息子を逮捕させました。もちろん、言い訳なんか聞きません」
仕事に対する誇りを見せる彼の姿に、私は首を傾げた。
そこで説明を聞かないのはどうなの?
ちょっと石頭すぎでは。
そこでシャーロットは顎に手を当てながら、何か考えている。
「ウグワー……? それはどこに消えたのかしら」
彼女は何かが気に掛かっているようだ。
グロッサー氏はさらに、言葉を続ける。
「ところが、宝冠の一部……。そう、先端についてた三角錐状の部分が欠けてたんです! どこを探しても見つからない。これじゃあ、担保を傷物にしたということで、融資を返してもらえなくなるかもしれない……!」
グロッサー氏が青ざめた。
彼が直面しているこれが、今回の事件ということなのだろう。
「いいでしょう。わたくしとジャネット様が、現場に行って解決しましょう!」
シャーロットは微笑むと、残りの紅茶をぐっと飲み干したのだった。
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