第68話 プレイヤー:霊泉

 

 目の前に滑り込んで来たプレイヤーを見て、イケシルバーはあからさまに呆れたような表情をしてため息を吐いた。


「霊泉よ。遅れてきたことに対する謝罪は良いのじゃが、飛び込んでくるのはどうなんじゃ?」

「あ、ごめんなさい。全力で走っていたので止まれなくなってしまって」

「次からは気を付けるんじゃぞ」

「はい」


 イケシルバーの反応や霊泉と呼ばれたプレイヤーの対応を見ると、おそらくこいつはいつもこうなのだろうな、というのがよく分かった。

 まあ、予定していたやつが来たのだからようやく真面な情報交換になるだろう。


「さて、話の続きを、と言いたいところじゃが、ミヨさんは霊泉と会うのは初めてじゃったよな」

「そうだな」

「だったら、先に紹介だけは済ませておいた方が良いじゃろうな」


 まあ、ある程度知っている方が話は進めやすいかもしれないな。ただ、今そいつは飲み物を買いに行っているけど。何と言うか、マイペースなやつだ。



「霊泉です。テイマーやってます。それと一応、ウロボロスのテイマー関連の情報のまとめ役もやっています!」

「ああ、うん、そう」


 ぐいぐいくるタイプなんだな。あまりこういう奴って得意じゃないんだが、と言うか、こいつがまとめ役なのか? 大丈夫なんだろうか。不安になるな。


「まあ、これでも上手くやっておるのじゃよ。それに、テイマーやサモナーはクラン内でも人数が少なくての。本当ならテイマーは一番検証する項目が多い故、もう少しプレイヤーが多いと良いのじゃがのぅ」


 ああ、ウロボロス内でも職の偏りによる問題あるんだな。聞くところによるとクランのメンバー数、今あるクランの中でも五指に入るらしいけど。

 それと、イケシルバーのなにか求めて来ているような視線は無視した。前から何度か誘われてはいるが、俺は好きなようにゲームをプレイしたいからクランに所属はしない。パーティーも必要なとき以外は組む気もないからな。



 霊泉の自己紹介も終わったので、本題に戻る。

 一通り、テイマー関連で新しく手に入れた情報を霊泉に話したところ、思いの他真面目に話を聞いていたので驚いた。


「なるほど、スライムガールにアルラウネですか。現在、人型のモンスターはミヨさんがテイムした2匹しか確認できていないのです。出来ればこの後、その子たちをじっくり観察しても良いですか?」

「うーん……まあ、長時間でなければ」


 情報交換が終わった後にフィールドに出て第4エリアを探索するつもりだから、長引くのは困るが、今の霊泉の態度からしてそこまで問題は起きないだろう。元の態度に戻ったらわからないが。


「ありがとうございます。では、テイマー関係の話しも終わりましたし、さっそく……」


 自分の関係する話が終わったからって速攻で行くのかよ。いや、こいつはテイマー関係の話を聞くために来たのだから、ここからの話しに殆ど参加することは無いはずなんだが、なんかなぁ。

 まあ、イケシルバーが呼んだのだから、これでも検証するという事に関しては優秀という事なのだろうが。


 腑に落ちないが、俺から止める理由もない以上、席から立ち上がった霊泉を見送ろうとしたのだが、ふとさっきから気になっていたことを聞いてみることにした。


「そう言えば霊泉ってテイマーなんだよな?」

「あ、はい。そうですが?」

「なら、何でフルプレートの鎧を装備しているんだ?」


 霊泉はテイマーにも関わらず、フルプレートの鎧を装備しているのだ。今はヘルムを装備していないが、話しをするために外しているのだろう。


 そもそも、テイマーの装備は基本、前衛の職業ではないのでフルプレートの鎧を装備することはほとんどない無い。まあ、こういう物を装備したがる物好きも居るので霊泉もその類かもしれないが、何か不自然な感じがして気になったのだ。


「え? あーこれはですね。本物のプルプレートメイルでは無いんです」

「は? どういうことだ?」

「実はこれ、と言うかこの子はテイムモンスターなんです」

「……はい?」


 この鎧がテイムモンスター? どう見ても普通の鎧だが、いや、アンデット系ならあり得るのか? どうして装備出来ているのかはわからないが、アンデット系であるなら他のゲームでもあるしないとは言えない。と言うか、俺が知らないだけで居るのだろうな。


「まあ、見た目だけならわからないですよね。他のメンバーにも同じような反応をしてくる人が多いですから」

「だろうな」


 いや、もう、これ完全に普通の鎧にしか見えないんだよ。俺も聞かなかったら知らないままイケシルバーたちと別れていただろうし。


「それで装備を解除すれば理解してもらえると思うので、一回脱ぎますね。レヴェナ、装着解除」


 霊泉がそう言うと、装備していた鎧が光り一瞬で霊泉の体から離れた。そして霊泉の横に中身のないフルプレートの鎧が地面から少しだけ浮いた状態で佇んでいる。そして誰も触っていない状態で勝手に腕を組みだしたので、自律して動いていることもわかる。


「ああ、本当に普通の鎧じゃなくてモンスターなんだな、ッ?!」


 霊泉が装備していた鎧が本当にモンスターであることが理解できたので霊泉の方を見たのだが、俺はすぐに視線を鎧の方へ戻した。


 いや待て、え? エティテプよりデカい……だと? 

 霊泉が使っているアバターの身長は俺より少し高いくらいだ。それなのにエティテプよりデカいって何だよ。と言うか、顔と声の感じで男だと思っていたんだが、それに鎧を装備していたせいで体型が全くわからなかったのもあるけど、女アバターだったのか。確かに声は少し高めかな、とは思っていたが、ボーイッシュ系のアバターだったとは。まあ、そうなのは顔と声だけだが。


 低身長で出る所が異常に出ている、というのはリアルオッサンの拗らせアバターではよく見るんだがな、ロリ巨乳。ただ、霊泉の今までの反応からしてそんな感じでも無い気がする。まあ、本当のところはわからないが。


 これで、中身が男ならガン見しても問題ないかもしれないが、中身が女だったら何を言われるかわからない。

 FSOでは知らないが他ゲーで、アバターだから問題ないと言ってガン見していたプレイヤーが運営に通報されてペナルティを食らった、という話もあるからこういうことに関しては、多少神経質になって対応した方が身のためだろう。


 とりあえず、理解したのでもう戻して良いと霊泉に言って、さっさとフルプレートモンスターを装備してもらう。


 見て直ぐに確認を終えようとしている俺に霊泉は少し不思議そうに返答してきたが、それについて追及してくることは無かった。


 ふう。これで安心して霊泉を見ることが出来るな。いや、じっくり見るつもりはないけど。

 

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