第5話 バロラ先生の魔法基礎講座 ~理論編~
「まず魔法理論の基礎から説明していくわね?」
「はい。バロラ先生、よろしくお願いします」
バロラの説明によると、「魔法というのは人の心の働きによって生み出されるもので、人の願望のイメージに魔素が反応して発動されるもの」とのことだった。
例えば「風の刃を飛ばして敵を切り裂きたい」というイメージを強く具体的に心の中に描けば、それに風属性の魔素が反応してイメージしたことが実現する。
それが魔法というものらしい。
「魔素は世界中の至る所――空気中に、水の中に、土の中……私たちの体内や魔物の体内にも存在しているわ。魔素に呼びかけ、それぞれの魔素が持つ属性に応じた願いごとを自分たちのイメージを通して実現させるのが魔法よ」
ただ魔素が反応するくらいまでの具体的で強いイメージというのは誰もが持つことができるものではないそうで、その為に魔術師は術式というものを使っているそうだ。
「ねえ、バロラ。術式ってなに?」
「具体的に言えば、呪文の詠唱、象徴するシンボルを描くこと、変わったタイプのものだと舞踊や生贄をささげるみたいな儀式を行うものもあるわね。要はそういった行為を通して自分の心の中にある実現したいイメージを具体化・強化する感じね。何となくイメージはつくかしら?」
「うーん、なんとなくは分かるよ?」
ボクがそう答えるとバロラは「一度やって見せた方が早いかもね」と言い、近くにちょうど
バロラは短剣を鞘から抜き、樹の方へと向ける。
彼女は短剣で空中に正三角形とその上の方に横線を描きつつ呪文を詠唱をした。
「いと
呪文の詠唱が終わると短剣の先から淡い緑色の風の刃のようなものが発生し、
風の刃は林檎の樹の幹を切り裂き、樹はバサリと倒れた。
「どう? なんとなく分かった?」
「うん、なんとなく分かるよ」
「そう? じゃあ詳しく解説するわね」
バロラによると術式は以下の手順を追って展開されるようだ。
――――――
①まずは使いたい魔法属性のシンボルを描く。
さっきバロラは短剣を使って空中に風属性のシンボル――正三角形の上の方に横線を引いた図形――を描いた。
これは『ここに風の力を具現化してね』と座標を示す意味があるようだ。
描くシンボルによってその座標に下ろされる力は変わってくるそうで、ひとまずボクは自分に適性がある火、風、水、土そして闇の五種類のシンボルを覚える必要があると言われた。
「光の属性はシンボルは無いの?」
と途中で質問を投げかけたが、
「あれは魔法とは異なる神聖術だから全く違った技術になるわね。残念ながら私は光の適性が無いから、神聖術については教えてあげられないわ。それにニケも、とりあえずは魔法を身に着けることに専念なさい。あまりあれもこれもと手を出し過ぎると、何も身につかないわよ?」
ということで、光属性についてはよく分からなかった。
②呪文の詠唱を行う。
バロラからは、まず呪文の詠唱にはいくつかの段階があると説明された。
まず最初に行うのは【呼びかけ】。
これはさっきバロラが見せてくれた『
【呼びかけ】は何の力を用いたいか、その魔素の属性を象徴する言葉を述べることでその力を呼び出す行為だとバロラは説明してくれた。
「『
ということだそうで、上級の魔術になる程、詠唱は長くなるようだ。
次に詠唱で行うのは【形成】。
これはさっきバロラが見せてくれた『
【形成】とは単純にどんな形になって具現化して欲しいかを示しているそうだ。
そして詠唱の最後に行われるのが【
これはさっきバロラが見せてくれた『
【
【
③発動
術式の最後に行われるのが【発動】。
これは単に術名を唱えるということで、さっきの場合だと『
詠唱の一部なんじゃ?とは思ったけど、いちおう微妙に違うらしい。
術式は何度も何度も反復して実践することで、魔術師の心の中に「
でもその場合でも基本的には術名を唱える【発動】は必要で、【発動】のみの工程で魔術を行うことを「術式省略」と言い、【発動】さえ行わずに魔術を行使することは「術式破棄」と言って、より高度な技術になるそうだ。
バロラによれば術式を用いることにもメリットがあって、やはり術式の工程を踏むことで魔術師の心の中にある願望のイメージがより具現化し、強化されるので安定した効果とより強い威力を発揮してくれるらしい。
逆にデメリットとしては「術式を展開するのに時間がかかる」「術式を見られることで相手に技術を盗まれる」「術式の途中で妨害することで発動させなくできる」という3点が挙げられ、状況に応じて「術式展開」なのか「術式省略」なのか「術式破棄」なのかを上手に選択できるのが、腕の立つ魔術師の条件だとバロラは言っていた。
――――――
「どう? それほど難しくはないでしょ?」
「うーん……シンボルを描いて座標を指定して、【呼びかけ】で使いたい属性の力を呼びだし、【形成】でその形を指定し、【
「偉いわ! ニケちゃん、良くできました!」
バロラはそういうとボクに抱きついて来て頬をすりすりしてくる。
「それで、ここからは少しややこしい話なのだけど、私たち魔術師は厳密には【魔法(
「うーん、ちょっと難しいね。でもとりあえずはその人しか使えないオリジナルのものを魔法と呼び、誰もが使える術式に落とし込んだものが魔術ということで良いんだよね?」
「そうね。その認識で間違いないわ」
バロラの話を聞いていると誰かが生み出した魔法の中でも、特にみんなにとって有用で術式に落とし込みやすいと思われるものを魔術のレベルに落とし込む作業は魔法大学という組織が行っているらしい。
魔法大学も魔法協会本部があるアレクサンドラにあり、魔法大学の教授たちが魔法協会の役員も兼任していることが多いそうだ。
魔術はその発動条件を術式に依存している関係で、発動する為の純粋な思いや願望の強さが魔法に比べて劣る為、魔術か魔法なら魔法の方が自由度も高く、威力も大きい。
だから魔術師は最初は魔術から入るけれど、いずれは自分オリジナルの魔法が使えるようになって「魔法使い」と呼ばれるようになるのを目指すということのようだ。
「魔法の自由度が高いからと言って、魔法使いなら誰でも自由にどんな魔法でも使えるという訳じゃないわ。それぞれに魔法属性に対する適性だってあるし、その人の魂の質や形みたいなものもあって、その人にあった願望のものしか魔法にできないのよ。攻撃的な性格の人は攻撃魔法を生み出すことが多いし、他人を思いやる人は治療系の魔法を編み出すことが多い。それでもたまにすっごく優しい人がとっても危険な魔法を生み出してしまうこととかもあって、それが魔法の面白いところでもあり、怖いところでもあるわね」
一通り魔法の基礎理論について教えてくれた後、バロラは「それじゃあ実践をやってみましょう!」とボクに声をかけた。
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