第26話 水族館へGO
「美味しかったぁ」
俺はピザ屋さんから出て、満足げにつぶやいた。
いや本当に当たりだったね。
ピザはもちろん、サラダもコーヒーもフレッシュでちゃんと美味しかった。
今度、関あたりと一緒に来てみたいと思う。
「午後はどうします?」
俺が腹を擦っていると、隣に立ったさくやさんが尋ねてきた。
「どうしましょうか。」
俺はいかんせん休みの日は家にこもるタイプの社畜だし、そもそもフルの休みも少ないし……。
ってことで、どこにどんなお店があるとかは詳しく知らないのだ。
まぁ、会社の近くなら嫌というほどわかってるけど。残念ながらここは会社とは真反対なのだ。
「何か近場でありますかね。」
俺はさくやさんに聞いてみる。
『午後はどうします?』という問いへの回答としてはバツだろうが、こんな良いピザ屋さんを知ってるさくやさんならなにか知っているかなと思ったので。
「そういえば、一駅先に水族館なかったでしたっけ?」
うーんと少し考えていた彼女は、ひねり出すようにそう言った。
「あぁ! あります!! 去年オープンしたところですね」
テレビでも紹介されて結構広くて良いって評判のところだ。
関が行って楽しかったとかほざいてたので覚えている。
「私あそこ行ったことないんですよね。行ってみましょうか!」
わくわくとした笑みを浮かべる彼女に、
「はい!」
俺もそう笑顔を返した。
◇ ◇ ◇
さっきさくやさんが言った通り水族館は一駅先だ。
で、都会の一駅というのは結構短い。
つまりすぐに着く。
「ほぇー、ここってこんな都会でしたっけ。」
俺は一駅先の駅におりて早々、そんな感想を述べた。
会社と反対側に来る機会なんて少ないからよく分からないけど、俺の記憶だとここはそこまで発展してなくて下町って感じのイメージだった。
「最近新しいビルがどんどん建ってますね。」
さくやさんは俺と同じようにビル群を見上げていた。
再開発ってやつか。確かにビルが建ったら都会って感じがするし便利なんだろうけど……下町の風情とか俺結構好きなんだよな。
「そうなんですねー」
俺はしみじみとした気持ちでつぶやいた。
「水族館はあっちですね。」
地図を持ったさくやさんに連れられ、俺は水族館へと歩きだした。
都会の駅というのは迷宮だ。
ここに住んで長い俺でもよく間違う。
でも今回はもう見えていて、目と鼻の先にあるから迷うことはなかった。
「うわぁすごい!」
水族館の入り口には、大きな水槽が展示されていた。
中にいるのは大体が小魚だけど、時たま大きな亀とかが通っていてこれだけでも楽しめそうなくらいだ。
でもせっかくここまで来たんだから全部見なければ損ということで、俺たちはチケットを買って中へと入った。
ちなみにチケットは少しお高め。都心だし広いらしいから、これくらいは普通なのかもしれない。
「デケェ……」
入って少し進むと、壁一面ガラス張りの超巨大水槽があった。
こんな最初から本気出しちゃって良いのだろうか。
「イルカに亀にカニもいますね!」
水槽を輝くような目で見つめたさくやさんが言う。
「こういうの好きなんですか?」
「はい。生き物とか自然とか、都会にいると忘れがちですけど、大事だし大好きです!」
俺が何の気無しに尋ねると、彼女は普段のクールな感じじゃなくすごく熱を持って答えた。
さくやさん、かなりの自然好きなんだな。
俺も自然とか田舎とか好きだけど、そんな詳しく語れるほどには知らないな。
「うわ、エビの赤ちゃんだぁ」
ガラス越しに指を指して言う彼女の横顔を見ながら、『幸せそうで何より』とそんな謎に上から目線な感想を抱いた。
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