第23話 映画でも見よう

映画館でポップコーンを食べるか論争。


それは古くからこの日本に存在する、大きな争いだ。


そもそも映画館でポップコーンを食べるようになったきっかけは、マイケル・ジャクソンがスリラーの作中で美味しそうにポップコーンを食べていたことに由来するらしい。(諸説あり)


それ以来我々は映画館に行きポップコーンを買うようになった。中には、ポップコーンを食べるために映画を見に行くという猛者も存在する。それくらいに、映画館とポップコーンは切っても離せない仲である。


俺的にはポップコーンを食べる派が優勢だと思う。

だが、食べない派の中にはかなりの強硬派もいるらしいから、量と質。そのどちらも鑑みれば、拮抗しているとも言える。


食べる派のなかでも、塩派キャラメル派が存在し、その間でもバチバチに戦っている。

その他にも、ジュースを飲むか。コーラかペプシかなどなど。


映画館に関する争いは数多く存在し、そのどれもが熾烈を極めている。


つまり俺が何を言いたいかと言うと、ポップコーンどうしようかなって話。ただそれだけだ。


「さくやさん、どうします?」


チケットを購入し終わってすぐ、この問題にぶち当たった俺は、悩んだ末に本人に直接聞くことにした。


「私は買いますね。ジュースもちゃんと買うタイプです。」


さくやさんは一時の迷いも見せず、すぐさま返答してくる。


「なるほどぉ。そっちですか。」


俺は腕を組んで、それらしく頷く。


「かく言う、まさやさんは?」


彼女もノッてくれているようで、悪い笑顔を浮かべて俺を覗き込んできた。


「俺はですね…………どっちも買う派ですね。」


じっとりと悪役のニヒルな笑みを浮かべて答える。


前に言ったとおり、俺は映画館に来ることこそ少ないが、ポップコーンは食べる派だ。しかも、食べないと気がすまないタイプの食べる派。

いつ自分の中でこっちに傾いたのかも分からないけど、ずっと食べる派なんだよなぁ。


「ふふふ、気が合いますね。」


「えぇ。」


俺らはお互いを見合って小さく笑った後、購買まで歩んでいった。






◇ ◇ ◇






映画の内容はさっきも言ったとおり、荒廃した世界でゾンビに追われながらも、別れた彼女のために戦うお話だ。


実際に見てみても、パンフレットに書かれた紹介文の通りで、ハンサムなお兄さんが色々な仲間たちと助け合ってゾンビと戦って、最後はヒロインに出会うという王道展開。最後にヒロインがゾンビになってるパターンとかも想像したけど、これはそこまで鬼畜ではなかったようだ。


俺としては、結構グロ味が強くて、今晩は早めに寝ようと思わされる内容だった。


「いやぁ、面白かったですねぇ!!」


さくやさん的には大満足のようで、ほくほく顔でそう感想を述べていた。


「良かったですね。」


俺もグロを抜きにしたら、なかなかに満足できるストーリーだったので、頷き返す。

やっぱなんやかんや王道って良いのよ。期待を裏切らない分、面白さも安定していて良き。


俺は『あそこのところで……』と未だ作品の余韻に浸っているさくやさんを横目に、時計を確認する。


現在は12時ちょい過ぎ。

朝ごはんを食べてこなかった俺としてはお腹が空き始める時間帯。


会社に居たのならば、周りと


『お前休憩行くんだろ?』


『お前先いけよ』


『いや、お前行けって』


『お前ら、まだまだ小物だな。』


『『その声はっ!!』』


『俺は先輩の様子伺ったりしないで休憩に入るぜぇ』


『『つッ、ツェぇ!!!!』


そんな高度な心理戦を繰り広げた末に、お昼休憩へと入っている頃だろう。


ああいうのはだいたい課長と次長の間のやつか、新しく入ってきてまだまだ反骨心残る新人あたりが先陣切るんだよな。


「ご飯はどうしますか?」


俺は先陣を切った結果課長のご機嫌を損ね、午後の業務を増やされていた橋下を思いながら、さくやさんに尋ねる。


「このビルの10階に最近、ピザ屋さん出来ませんでした?」


「あぁ、そんなこと聴いたような気がします。じゃあ、そこに行きましょうか。」


俺たちは、ピザ屋へ向かうためエスカレーターに乗った。


休日の駅前の商業ビルなだけあってかなり混んでおり、周りは子供連れの家族やまだ若いカップル達で賑わっている。


「ここですね。」


10階に入ってすぐに、おしゃれな文字で『PIZZA』と書かれた看板が見えた。


「お名前をお書きの上、お待ち下さい。」


中に入ると、忙しそうにしながら店員さんがそう『お』をふんだんに使ったとても丁寧な接客をしてくれる。


昼時だからか、すんごい混んでるな。

俺はさくやさんが名前を書くのをみながら、そんな事を思った。

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