第16話 休みに出かけよ
「ふぁぁ……さてと。」
俺はあくびをしながら、スーツの袖に手を通した。
今日は休みの日なのに、何故背広なんて着ているかというと……。
「大家さんか。入居時に会った時以来だよな。」
俺のお家の大家様に、新しくペットになったにゃんこの紹介と、あと今月いっぱいで対処する旨を伝えに行くからだ。
「みゃーん」
俺が眠気で下がってくる目を、コーヒーを流し込むことによって戻していると、猫が足を引っ掻いた。
「なんだ、さっきご飯はやっただろ。」
俺はコーヒーをおいて、猫ちゃんを持ち上げる。
高い高いをして目線を合わせてやれば、猫は目を細めて気持ちよさそうにした。
「お前、名前ないのか?」
猫を床におろしながら、不意にそんなことを思った。
ずっと猫猫言うのもなんか変だし、早めに名前をつけてやらないとな。
「何が良いかな……」
残りのコーヒーを流し込んで、俺はつぶやく。
色は全体的に少しくすんだ白色。目は澄み切った碧色。なんか深海みたいでカッコいい。
深海……英語で言ったらディープシーか。なんかカッコつかないな。
俺はスマホで翻訳アプリを開き、適当な言語に深海を翻訳していく。
ラテン語なら……イークアか……カッケーじゃん。
俺らしからぬ陽キャ的感想を述べて、俺は猫ちゃんを持ち上げ、
「お前は今日から、イークア。分かったか?イークアだぞ?」
そう半ば洗脳のようにイークアを覚えさせようとする。
「みゃぁー」
が、まぁ猫が覚えるはずもなく。
猫ちゃんことイークアは、訳がわからないとばかりにのんきな鳴き声を上げた。
「今何時だ?」
長年染み付いた社畜ムーブ。
猫を愛でてるでも何してるでも、なんとなく時間を気にしてしまう。
これ結構あるあるだと思うんだよね。
俺は壁にかかった時計に目をやって、
「まだ9時か……」
と、当たり障りのない反応をする。
まぁ、一人暮らしの社畜おじさんの休日に楽しさを求めたら負けだろう。
「ふぁあ……さて、行くか。」
俺はベルトをきつく締めて、最終確認のため鏡の前に向かう。
「靴下よし、スーツよし、ベルトよし、シャツよし、ネクタイよし、髭よし、髪の毛は……いつもからこんなんだな。」
毎朝の自己的な社畜点呼をこなす。
コツはちゃんと声に出すことと、下から順番にやっていくことだ。
俺のちょっと色味が変な黒髪は、職場に行ってるときでも大してキマってないから問題はない。
昔からワックスとか苦手なんだよな。あとは、香水とかもちょっとならいいけどキツイと、うわってなる。
まあ社畜だから、先方なら笑顔で対応するし、何なら褒めたりしちゃうけどね。
「いってきまーす。」
手持ちのバックに書類とか諸々の持ち物が入っていることを確認して、俺は玄関から外へと出る。
「みゃーん!!」
そんなイークアの鳴き声を聞きながら、俺は玄関に鍵をかけた。
うん、今日も太陽が眩しいね!!
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