第97話・D-デイ④
扉を抜けた先、配管が張り巡らされ、至る所からバルブが突き出す狭いメンテナンス用通路を進み、錆びが目立つ薄緑の扉を、先頭のニールが慎重に開いた。小さく開いた扉から体を滑り込ませ、左方を壁に預けた状態で、静かに捕虜収容所に侵入する。
コンクリート打ちっぱなしの狭い廊下だった。最後尾のレインが扉を閉め、後方にも敵兵が居ないことを確認し、カークの肩を後ろ手に叩く。カーク、マックス、ライド、そして先頭のニールへと合図が伝えられ、『前進する』と彼の声が無線機から流れる。
部隊は列を成したまま廊下を進み、突き当りを右へ折れた。敵の姿は無いようだった。少しそのまま進み、ニールは右の壁に現れた青い鉄の扉の前で止まる。
「ライド」
彼の声が流れる。ライドがニールを追い越して扉の前へ行き、そこで片膝をついた。ニールがマックスにハンドサインを出し、マックスはニールとライドを追い越して、その先に伸びる廊下に銃口を向ける。
「出来た。何時でも行ける」
扉の錠に、細い棒を二本突っ込んでピッキングを試みていたライドが顔を上げて言った。ニールがそれに頷き、扉へ銃を構えなおす。彼はカークに二本立てた指を見せ、次に扉の方を示した。
二人で突入する、という意味だ。カークはそれに頷く。
「合図で開けろ。3……2……1……」
カークが銃を持ち直す音が、レインの背後で響く。
「GO!」
ニールが語気を強めて言い、ライドがドアを勢いよく開いた。ニールとカークが扉の先へなだれ込み、単発に切り替えたMP7を速射する。くぐもった音が何度も響き、扉の向こうの暗闇が発火炎で明滅する。
「クリア」
ニールの声だ。念のために扉へ銃を向けていたライドが後ろ手にマックスの肩を叩き、その後、ライドは扉の先へ消える。マックスは立ち上がり、廊下の先へ銃を向けながら後退し、自身とは反対側へ銃を向けていたレインの肩を叩いた。マックスに連れられて、レインは後ろ向きのまま扉をくぐった。
扉の先で反転し、状況を確認する。先程まで進んで来た廊下より広い通路が正面に向かって伸びていて、その先に鉄格子で閉じられた階段があった。鉄格子の左右にはクゥエル兵の死体が転がっている。ニールとカークがやったのだろう。
「
「了解」
ニールが言い、マックスが答える。列を戻し、鉄格子に近づくと、マックスがライドとニールを追い越して鉄格子の前で膝を突き、錠にテルミット爆薬を設置した。
「騒がしくなるぞっ!」
マックスが隊列に戻り、起爆装置をスイッチする。セットした爆薬が鉄を熔解する金切り声を上げ、火花と共にオレンジ色の煙が立ち込めた。
「おい、何だ?」
先程くぐった鉄の扉の向こうから、男の声が聞こえた。後ろを警戒していたレインは扉の方へ銃を向け、膝をついて身構える。彼のすぐ後ろで、カークが腰を落とした態勢で銃を構えるのが分かった。
「騒がしいぞ! 何をやっている!?」
怒鳴り声が響き、扉が勢いよく開かれる。
敵は二人。上官であろう制服を着た男と、その隣の野戦服姿の兵士だった。
レインはやるべきことをする。銃の引き金を引き、彼のすぐ後ろで、もう一つ銃声が鳴った。
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