第75話・新生活⑥

 何とか白黒コンビを撒き、レインは命からがらウルスを停めた駐車場まで逃げた。運転席のドアを勢い良く開けて車内へ飛び込み、エンジンを点火させる。


 威勢のいいエキゾーストノードが響き渡り、その音に気付いた白黒コンビが、レインが逃げ出してきた建物から飛び出て来る。


 レインはすぐさまギアをDに入れ、さっさと車を発進させる。ハンドルを切って、基地内の舗装路に合流し、アクセルを強く踏んだ。


 エンジンの咆哮を轟かせながら、レインは基地のゲートへ飛ばす。ふとルームミラーに目をやると、不機嫌な子虎の様な表情を浮かべながら、レーナとカイエが走って追いかけて来るのが見えた。


「まだいんのか……」


 レインは言い、出入り口の金網ゲートの前で一旦止め、入って来た時と同じおっさんに手続きを済ませてもらい、基地の外へ出る。


 ゲートが開き、レインは車を発進させる。ミラーを見ると、レーナとカイエが、先程のおっさんに停められているのが見えた。


 レインはその光景見て、口角を上げて笑いながら、窓から腕を出し、さようなら、の意味を込めて手を振った。




 家のガレージにウルスを停め、エンジンを切って車から降りる。玄関の扉を開き、ウルスのキーを玄関先へ置いた。


「さて……と」


 帰ってきてもやる事が無い。さて、どうしたものかとレインは玄関先で考え込んだ後、一旦家に上がって自分の部屋に向かい、部屋の隅に掛けてあった灰色のジャケットを手に取った。


 それを持って再び玄関先へ戻り、バイクのキーを取ってガレージへ出る。


 ジャケットを着て、ポケットに突っ込んでいたグローブをはめ、キーを差し込んで電装をオンにし、バーハンドルのスイッチでエンジンを点火した。


「そろそろオイル変えとかないとな」


 レインはギアを一速に入れ、クラッチを繋いで発進する。


 しばらく走り、家から少し離れた町へ出た。よく生活用品や食料を買いに来る町だった。決して大きくない街だが、欲しいものは大体揃う街だ。


 スーパーや服屋を通り過ぎ、レインはシャッターの開いた一軒の店へ、バイクで乗り付ける。


「あ、フォーミュラさん」


 丁度店の外へ出ていた、おさげ髪の少女がバイクを見て言う。レインはエンジンを切って、手で会釈し、バイクを降りた。


「よう、アンジェ」

 

 そう言って、店の方へ目をやる。


「ガストンは? 居るか?」


 おさげ髪の少女、アンジェが顔を横に振りながら言う。


「ごめんなさい。今ちょっと出てて」


 レインは喉を鳴らし、言った。


「そうか。なら、設備を使わせてもらえるか?」

「えぇ、いいですよ」


 優しい笑みを浮かべる彼女に礼を言い、レインはバイクを押して、店のシャッターをくぐる。中央にはフレームだけの状態のバイクが止め置かれており、様々な工具が壁に掛かっていた。

 

 油とタイヤのゴムのが混じった臭いがする。


「あれまだ直ってないのか」


 停められているバイクに目を向けながらレインが言うと、アンジェが返す。


「はい、少し苦戦しているみたいで」

「そりゃ災難」


 レインはそう言いながら、V45マグナの下に鉄のトレーを置き、壁に掛かっていた眼鏡レンチを手に取る。ジャケットを脱いで店の隅へ置き、自分のバイクの横へしゃがみこんだ。


「私、オイル汲んできますね」


 そう言い、アンジェは店の奥へ消える。


「あぁ、頼む」


 レインはそれだけ告げ、作業に取り掛かった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る