第277話 悪化スタンピード

「なんだ今の……」

「兄さんあれ見て」

「あれは隕石……なわけ無いよな」


 太陽のように燦々と輝く『幼竜エキドナ』とは別に空を切る赤い何か。

 大きさは人1人くらいでとにかく速い。


「遠すぎて何か分からないけど、えれモンスターだよな?」

「師匠がダンジョンの下でモンスターを『幼竜エキドナ』の孵化を遅らせているとして、エクスがダンジョンから溢れ出るモンスターを食い止めきれなくなったのかも……」

「あのダンジョン、スタンピードとでも起きてるのか?」

「俺達が居た時はスタンピードって言える程のそれはなかった。それに個体も弱かったし、エクス1人だけで十分過ぎる戦力のはず。それにあそこでリザードマンの人達も戦ってくれてるから、モンスターがこうやって出てくるなんて全く考えてなかった」

「何日も相手をしていれば流石に疲労でって事なのか、それともあそこで何か変化が起きているのか……。とにかく一般人をモンスターが襲ったらまずいな」

「まさか孵化前にこんな事態になるなんて……探索者協会も思っていなかったろうね」


 結果どうあれ探索者達の強化プログラムは有効だったって事になりそうだな。


 メアやトゲくんにはもっと落ち着いた環境で作業に勤しんで欲しかったんだけど、しばらくは騒がしくなってしまいそうだ。


「そのうち探索者協会から直接連絡が来るとは思うけど……行くよね兄さん」

「ああ。急いで準備――」

「2人ともこれっ! 着替えですわ!」


 俺と灰人が部屋に目を向けると桜井さんが着替えの洋服を放ってくれた。


 有り難くはあるんだけど、もうここ桜井さんの家みたいだな。


「輝明、私達は……」

「直ぐに片付けてくるから2人は自分の仕事を頼む。昼御飯様に昨日の残りがあるから、温めて食べてくれ。因みにここの火の付け方なんだけど――」

「いつもみたいな無茶しちゃ駄目だから。日が暮れるまで。それまでに帰ってこなかったら私達も戦いに行く」

「僕も主様についていきます!」

「分かった。全力で早帰り出来るよう頑張ってくるよ。知らないところで不安もあるだろうけど、留守番頼むな」


 俺は2人の頭をそっと撫でると急いで支度に取りかかる。

 その間桜井さんが鋭い視線を向けてきたが、時間掛かりそうだから触れるのはよしておこう。


「――よしいくか。灰人、桜井さん準備はもう――」

「万全ですわ!」

「俺も大丈夫。まずはさっきのあれが飛んでいったのが見えた辺り、忠利の店まで行こうか」

「忠利か。あいつなら1人で何とか出来てそうな感じはあるな」

「それならそれでいいんだけどね。あ、桃さんに依頼を頼んだ件で忠利も色々と動いてくれてたから、そのお礼もしてあげてね」

「……なんかその前に帰ってきたんなら直ぐに報告しろとかどやされて終わりそうだな」

「はは、多分そうなるだろうね」

「2人とも喋ってないで行きますわよっ!」


 桜井さんに急かされながら俺達はメア達を残して久々に3人でモンスターの討伐に出掛けるのだった。

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