第265話 バトンタッチ
「ぐはっ! その姿、どうやってあの氷の山を……」
「はぁ、はぁ、んっあ、刺で傷ついた体を、脚で蹴飛ばし、切り離してそのままここに……。最後まで、確認を怠ったのが仇になったな。絶対的強者による慢心、それがお前の、リヴァイアサンの敗因だ」
「まさかここまでしぶといとは……。せめて元の姿のままいれば致命傷にはならなかったか……」
「それも慢心故……」
――じゅうう
何かが焼ける時と似ている音と共に【1】の下半身は徐々に血が止まり治っていく。
にょきにょきと生み出される脚はグロテスクな形容から普通のものに……。
奴が手負いの今が絶好の機会だというのに、胸に刺さった手刀が食い込んで後ろに攻撃出来ん。
ダメージが大きすぎる事と、【1】の手を伝って魔力が漏れていく所為で元の姿にも戻れん。
絶体絶命というのはこういう事を言うんじゃな。
「大丈――」
「「がああああ!」」
「くっ! こんな時に!」
人間にシードンが攻撃を仕掛ける。
人間に助けようとしてもこの状況では無理。
「諦めろ。お前はこのまま死んで俺の養分となるしかない」
「……確かにこのままでは我は死ぬな。だが、ただでは死なんさ」
魔力を身体の中心に集中。
心臓を通じてそれを増やすのではなく、ゆっくりと膨張させる。
「お前まさか……」
身体が少し膨れてきた頃【1】は手刀を抜こうとしたがそれはもう遅い。
我の身体と手は氷で繋がっている。
「一緒に氷で大輪の花を咲かせようではないか」
「くそ! くそくそくそくそくそ――」
――パキン。
膨れた魔力を内側で突き破る操作をしようとすると、突如として【1】の腕が切れた。
すると、【1】は何かに気付いたのかまだ修復途中の下半身で慌ててその場を離れた。
「加勢のつもりだったのだろうが、残念だったな。今ので俺を殺すチャンスは失ったぞ。お前はリヴァイアサンの決死の自爆を実行させなければいけなかった! 俺はお前のスキルを完全に攻略している! いくら姿を消したところで無――」
「くっ!」
――カラン。
我の身体に刺さり残っていた腕が抜き取られると、次はそれが消えて何かがドロップする。
これは真珠か?しかも大量だ。もしかして【1】の蓄えていたものが腕部分からもドロップしたのか?
――パンパンパンパンパンパンパンッ!
辺りに飛び散った真珠は瞬く間に破裂し、姿を消す。
これは……消費されている?
「……お前、上げたな。その隠れることの出来るスキルのレベルを。くそ、この脚さえ十分に回復していたら阻止出来――」
「「があっ!?」」
【1】が悔しそうな表情を浮かべると、今度は人間達を襲っていたシードン達が瞬く間に凍ってしまった。
これだけ強力な凍結能力……流石は同種といったところか。
「輝明! こっちは私とトゲくんでなんとかなるわ!」
「リヴァイアサン!! あんたはまた無茶して!!」
いつの間にか到着していたセレネとトゲとその主人と他の加勢のメロウ達。
流れる歌声は我の体を癒してくれる。
とはいえようやっと動けるレベルの回復量。
癪だが、ここはレベルアップしたあやつに任せるとしようか。
「【1】の機動力は欠けている。頼んだぞ白石輝明」
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