第264話 やれやれ

「くっ! 流石に硬いが……壊せない程じゃない。これなら修復出来る範囲内だ」「……化け物になりおってからに」


 【1】のシードンの拳からは血が流れ、我の作った氷を赤色に染める。

 一見もう使い物にならんだろうというその拳は躊躇なく氷を殴り続け、氷を砕いていく。


 そしてその拳はとうとう我の体に届き、全身に凄まじい衝撃を与える。


 まるで全身の骨が振動しているようだな。

 内出血もしている。

 そう何発も食らっていい攻撃ではない。


「いつまでも好き勝手させてはやらんぞ!」

「ぐっ!」


 我は一度顔の氷を剥がし自分の歯だけを氷で覆うと【1】の体に噛みついた。 【1】が体の氷を壊す事に夢中になってくれていたお陰でその胴体に氷の牙が食い込むのを感じられる。


 ただ手応えがあまりにもない。

 硬いものを噛んでいるというか、弾性の強い肉ではない物体を噛んでいるようだ。


「修復機能により体が再生。それによって牙を押し返す。……痛みはあるし体力も削られるが、何とかなった!」


 ――ドゴ。


「ぐあっ!」


 【1】は拳を振り上げると我の鼻を思い切り叩いた。 鈍い音だがその威力は高く、我の鱗そして肉を潰しながら鼻骨をへし曲げてくれた。

 鼻からは血がだらだらと流れ、つい噛みついていた【1】から牙を抜いてしまう。

 【1】はそんな我の反応ににやりと笑って見せると、落ちながら体を回転、そのまま我の顎に蹴りを放つ。


 ――バキ


 不意打ちに近いその攻撃を避けることが出来ず、顎の骨を砕かれた。

 だが、我もやられっぱなしというわけではない。

 体を伝って地面に氷の刺で出来た山を作り、落下中の【1】を尻尾ではたき落としたのだ。


「ぐあああああああああっ!」


 氷の刺山に落ちた【1】は叫び声を上げながら体を捩る。


 いくら再生力が強かろうと全身を貫かれ、動けない状態で生き続けるのは不可能なはず。

 やれやれ、ダメージを負い過ぎたが何とか勝てたか。


「くっ!」

「……そっちの加勢をしてやらんと、な」


 人間が他のシードンに苦戦しているのが目に入った。

 どうやってあの氷から抜け出したのかは分からないが、シードンは想像よりも素早く動き、人間を翻弄している。

 しかもメロウ達は既に動くのも辛そうにしている。 傷を見るに、シードンにその肉を齧られたか。


 我はこの大きい体で動き回るのは、人間やメロウにとっても戦い辛い状況を作ってしまうと思い一先ずメロウの姿に。


 強固な氷をあれだけの範囲で作ったものだから魔力ご大分減ってしまった。 ここは近接戦闘で切り抜けるしかなさそうだ。


「大丈夫か人間」

「大丈夫。これくらい1人でも何とかなる」

「ははは、強がるな強がるな。さぁ残りを片してしまお――」


 その時不意に激痛が走った。

 さっきのダメージによるものではない。

 これ、は……


「ハァ……ハァ、ハァ……。危ないところだった。だが、まだ」


 振り返ると、そこには下半身を失った【1】。

 そして、我の胸からはその手刀の先が飛び出していたのだった。

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