第255話 来訪者
「お、お待ちしておりましたセレネ様!」
「ごめんなさい、貴方にここを任せてしまって。変わりはない?」
「はい。特に変わりはありません。ただなんというか間が持たなくて……」
「そうよね。この間まで敵としてしか対峙してこなかったんだもの。急に相手をして欲しいなんていう私のお願いは無茶もいいとこだったわ。でも貴方のお陰でリヴァイアサンさんもぐずらず来てくれたわ」
「そうみたいですね」
「給仕のメロウか?我は腹が減った。適当なもので構わんから何かないかの?」
「それでは直ぐにご用意致します。大丈夫かとは思いますが皆さんくれぐれもお気を付けて」
「ああ、ありがとう」
セレネ様の屋敷を訪れ、以前俺が寝かされていた部屋の前まで足を運ぶと安堵した表情で給仕のメロウが姿を現した。
会話から察するにここにメロウにとって畏怖するべき、いやしていた存在がいるようだ。
ピリッとした空気、緊張感が漂う中、マイペースなリヴァイアサンにはもう尊敬すら覚えるレベルだ。
これだけ自由で余裕があれば人生楽しいだろうな。
「さ、みんな入っていいわよ」
セレネ様は部屋の扉を開くと俺達を部屋に招いてくれた。
一体中に何が待っているのか。禍々しいものは感じないが――
「……白石久しぶり。死んでなくて良かった」
「桃ちゃん。なんでここに? 体はもういいの?」
セレネ様が食卓用に使っているお洒落な椅子の上にちょこんと座るその人はA級3位の探索者でダンジョンスライムでの一件でも活躍してくれた桃ちゃんだった。
スライムに寄生された事で体に異常が発生してしまっていた為、あの時参加していた探索者達は軒並み病院送りになり、治療に専念していたはずだけど……桃ちゃんの今の様子を見るにもう状態は良さそう、完全に回復しているみたいだ。
「ん。もう大丈夫。だからここにも来れた」
「そっかそうだよね」
「輝明、この子は? 随分親しそうだけど」
俺と桃ちゃんが言葉を交わしているとメアが鋭い目つきでこちらを見ながら質問してきた。
初対面の人間に緊張するのは分かるが、それにしてもちょっと怖すぎやしないか?
「この人は俺と同じA級探索者の桃ちゃん。たまたま仕事で同じダンジョンに潜った事があってそれで知り合いになったんだ」
「輝明と同じ強さの人間って事? だったら相当な強さの――」
「同じじゃない。桃の方がまだ強い。……多分」
負けず嫌いなのは相変わらずみたいだけど、少なからず俺の強さを認めてくれてるみたいではあるな。
あんな事があったばっかりだから意気消沈してるかもと思ったけどそんな心配はなさそうだ。
「それで桃ちゃんはなんでここに?」
「依頼? それともレベル上げ? 残念だけどいまこのダンジョンはレベル上げどころじゃ――」
「白石輝明を連れ戻す依頼。何日も帰ってこないって白石の弟とかあの店の店主とかがうるさくて、仕方なく。それに外はちょっと面倒な事になってるから探索者協会としてもA級以上の探索者を地上に帰ってこさせたいとかなんとか……」
「灰人達が依頼したのか……そういえば連絡してなかったからな」
「面倒事に巻き込まれているようなら手伝って欲しいとも言われた。それとこれ……店の店主から白石にって。困ってたらこれが役に立つかも、らしい」
そう言って桃ちゃんが取り出したのは忠利に預けていた進化の薬だった。
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