第228話 城

「まさか、空間移動の穴を消せるスキルがあるなんてな……。これは一杯食わされた」

「これで直ぐにはあそこに戻れないだろ? メア達はあそこから逃げれるし、お前達が【4】のシードンと違って唄の耐性は低い事を考えると、回復した状態のメロウと援軍が攻めて来たら……。お前は俺なんかよりもメロウ達を先にここに送り込むべきだったな」

「確かに元巣にメロウが押し入って来るのはまずい。だが、メロウがわざわざ危険を冒してまで別の種族を助けに来るとは思えないな」


 移動した先で俺は【3】のシードンに嫌味を言い放った。


 だが、【3】のシードンはそれにも動じず、冷静に今の状況を理解、その上でどの程度の危険に陥っているのかを悟っているようだった。


 正直なところ俺もメアとトゲくん以外のメロウが俺の為にここまで来てくれるかどうかは自信がない。


「とにかく、お前は【1】の元に連れて行って扱いを考えさせてもらう。暴れるようなら……分かってるな」

「暴れたところで、逃げられるとも思ってない。安心しろよ」

「そうか、見た事のない種族だが知恵は働くようだな」


 こうして俺はタイルが敷かれた道、古い時代の海外の街並みに似た通りを抜け、目の前に聳える巨大な城へと運ばれるのだった。



「ん? 【3】、何故おまえがここに……」

「上層でちょっと問題が起きた。進化したメロウとシーサーペント、それにこのモンスターが檻から掴まえていたメロウを逃がそうとして……【4】の奴はこいつらに殺された」

「モンスター……」


 城の中をしばらく進んだ先に見えた大きな門を開けると、そこには【1】と刻まれたシードンと【2】と刻まれたシードンが退屈そうに椅子に腰かけ、テーブルに置かれたカップを口に運ぼうとしていた。


 【1】のシードンと【3】のシードンは以外にも気さくに話しているように見える。


 上司と部下という立場ではないのか?


「……それ、モンスターっていうか多分人間」

「人間?」


 幼い少女のような出で立ちの【2】が俺の顔をじっと見つめて呟いた。


 このシードンは何故人間を知っているんだ。


「俺達の姿とそこの人間の姿が少し似ているのは、我々シードンという種族に流れる人間の血が濃いから。人間の血が濃ければ濃い程強い個体である可能性は高くなり、生存率も上がる。まぁ、それもある程度レベルが上がらないと分からない事だが……。なんにせよ現に俺達上位の数字を与えられたシードンがこういった姿になっているのがその証拠だ」

「【1】、【2】もこの事を知っていたのか?」

「つい最近。ちょっと前にこの奥から女王の泣くような声を聞いて、それで」

「女王の泣き声……それがこの話とどう関係しているんだ?」

「それは女王に直接聞けばいいさ。人間を連れてきたとあれば、奥から母う――女王は出てきてくれるだろうから」

「……分かった。ならば女王に直接聞こう」


 【3】のシードンは大きな扉を3回ノックした。


 すると、扉はぎいっと開き、その奥から何かが飛び出てきた。


 これは……


「人間?」


 地面に落ちたそれは間違いなく人間。


 だが、既に息絶え、息もしていない。


 そして何よりも気になるのは、この人間の体型が恐ろしい程細いという事。


 この人は一体この奥で、何をされていたんだ。


 俺はごくりと唾を飲み込むと、目を細めて扉の奥にいるそいつを見つめるのだった。

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