第225話 メアの友人

「痛みは落ち着いたか?」

「……うん、ありがとう」

「トゲくんにポーションも飲ませたし、仲間を助けにいくか」


 メアは軽く頷くとすっと立ち上がり、すたすたと歩き始めた。


 切り替えが完了したのか、さっきまでと比べて表情がキリッとしている。


「まずは右端からでいい?1番大きく唄が聴こえてきたのはここみたいだったから」

「そうだな。でも何回も往復するのは……。ここはちょっと横着させてもらおうか『贋物』」


 俺はスキルで分身を生み出すと、ノートを取り出して破り、その切れ端にメッセージを書いた。


 そしてそれを持たせて分身には他の2つの階段を各々進んでもらった。


 この先にあれ以上強いシードンはいないだろうし、任せてしまっても大丈夫だろう。


「本当に便利なスキル……」

「これで他も大丈夫なはず。俺達も先に進もう」


 こうして俺達はようやく檻のある階段下へ向かい出したのだった。



 階段を下るとそこは灯りがほとんど無く、じとじとと湿った空間。


 看守であろう1匹のシードンは眠っている様で、檻という体裁を整える為だけにいるのかと思うくらい。


「もしかして、メア?」

「その声はリモ?」


 響いてきたのは可愛らしい女の子の声。


 どうやらメアの知り合いらしい。


「暫く見ないと思ったらこんなところに……大丈夫?」

「ちょっと傷は痛むけど、大丈夫。他のみんなもさっきの唄で疲れただけで大丈夫、生きてるわ」


 よく見れば奥に何人か横になるメロウ達が……かなり衰弱していそうだな。


「ごめんね。助けに来るのが遅くて……」

「別にメアが謝る事じゃないわよ。それにセレネ様も悪くない。まさかシードンがこんなに強くなっていたなんて思いもしなかったわ。それで……そっちのは人間?」


 メアの友人のメロウは俺に鋭い目を向けた。


 なんかもうこれも慣れたな。


「彼は仲間。大切で、頼りになる……」


 以前とはうって変わってメアは落ち着いた様子で説明する。


「……メア、あなたもそんな風に話す様になったのね。さっきの唄、メアだって気付かないくらい美しいあの唄、あんな唄を歌える理由がよく分かったわ。あなた、メアを泣かせたらただじゃおかないから」


 キツイ口調ではあるものの、敵じゃないと理解はしてくれたみたいだ。


 今回は自傷行為は避けられたか。


「それにしてもあれだけ強いリモまで掴まるなんて……」

「【4】のシードンに唄が効かなかったのが、まずかったわ。まぁそれでも人数差もあるし勝てると思ったんだけど……。【3】のシードン、あいつはヤバいわ」

「そんなに強いのか?」

「人間、あなたもここにいるって事は【4】のシードンを倒した強者だとは思うけど――」

「これでも勝てなさそうか?」


 俺は眠っていたシードンを『即死の影』を用いて倒す。


「凄いスキルだとは思うけど……。せめて私達に唄を歌えるだけのMPが残っていれ――」



 バンっ!



 その時唐突に壁が勢いよく破壊された。


 その壁の破片に混じっているのは俺の分身……。


 ゆっくりと俺達の前に現れたのは【3】が刻まれたシードンの姿だった。

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