第184話 グランドタートル

「がぁ……」

「「冷たっ!」」


トゲくんは頭を下げ自分達の足元に氷の息を吐く。

するとアルジャン達の膝下くらいまで薄めに氷が纏わりついた。


それを確認したトゲくんは、2人の身体に自分の尻尾をぐるぐると巻き付けて思い切り引き抜くようにして氷から剥がした。


ここからだと見えないかったが、恐らく足元には鳥もちのようなものがあってその粘りを凍らせる事によって無効化したのだろう。


以前同じモンスターと戦った事があるのか、それとも即座にそれの性質を読み取ったのか、どちらにしろトゲくんは普通のモンスターよりも格段に賢いようだ。


「がぁっ!」

「「うわぁっ!」」


トゲくんは俺とメアに視線を向けると抱えていた2人を放り投げた。


「アルジャン、ルージュ! 武器に変身するんだ!」

「「うん!」」


流石に人の状態の2人を受け止めるのは無理そうだったので俺は2人に武器になるよう指示して、ジャマハダル状態の2人を掴みとった。


ちょうどいいし、2人にはしばらくこのままでいてもらおうか。


「がぁ……」


アルジャン達が足枷となっていたのだろう。

トゲくんは2人がその場から消えるや否や氷の息を吐き散らし、グランドタートルの身体を一気に凍らせにかかる。


しかし、それを危惧したグランドタートルは短い尻尾をこれでもかと伸ばし、トゲくんを自分の背中からはたき落とした。


勢いよくはたかれる様は相当痛そうに見えたが、トゲくんは呻き声を一切あげない。


事実トゲくんのHPはほとんど減少していない。

きっと防御力のステータス値が高いのだろう。


グランドタートルはそんなトゲくんにその大きな足で踏みつけの追撃を仕掛ける。


動きは遅く避けるのは容易そうだが、受け切るのはしんどそ――


「がぁ……」


俺の考えに逆らうかのようにトゲくんは自分の尻尾に氷の息を吐きかけ、厚く厚く大きく大きく氷を纏わりつかせると、尻尾を高々と意気揚々に掲げた。


他のシーサーペントと戦った時にも思ったが、このシーサーペントという種族は戦闘意欲が強い。

そしてその決して退かない姿勢には感心すら覚える程だ。


「がぁっ!」


グランドタートルの踏みつけとトゲくんの氷の尻尾での振り払いがぶつかった。


氷の尻尾からはパキパキという音が漏れ、更にトゲくんの足元の砂が沈み込む様子は、そのぶつかり合いの凄まじさを物語っている。


「――っが」


このぶつかり合いは上から潰しにかかるグランドタートルが有利に見えた。

だがトゲくんの氷の尻尾がだんだんとグランドタートルの足に食い込み、血を滴し始めた。


それの所為なのかグランドタートルの足に先ほどまでの迫力が感じられない。

それに反してトゲくんの表情は気迫に満ちている。


どんどん食い込む氷の尻尾、増えていく血。


「っあ゛」


グランドタートルは痛みに負けて遂に声を出すと、足の力を緩めた。


しかし引くのがあまりに遅すぎた。


「うがぁっ!」


それと同時にトゲくんはその氷の尻尾でグランドタートルの足を遂に切り裂いたのだった。

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