第164話 インファイター
「あ、ぐががぁ……」
口一杯に族シャコを詰め込んだシーサーペントは、一生懸命それを飲み込もうとしていた。
だが遂に丸のみを諦めたのか、咀嚼する素振りを見せる。
バリ、メキ、バリ、ごっくん。
ある程度小さくしたところでシーサーペントは喉を鳴らす。
しっかり咀嚼しなかったせいでお腹の辺りがぼこんと出てしまっているのはご愛嬌というところだろう。
「もう、そっちじゃないでしょ……」
その時微かに声が聞こえた気がした。
俺は辺りを見回す。
だが、人影は見当たらない。
勘違いか? でも確かに――
きぃー。
囁き声よりももっともっと小さな、吹けば消えてしまいそうな程小さい音が今度は確かに聞こえた。
きっとさっきの声で身体が勝手に気を張ったお陰で聞こえたのだろう。
「もしかして幽霊――」
「があっ!!」
音に怯えているとシーサーペントがこちらに気付いたのか、けたたましい鳴き声で吠えた。
シーサーペントのぎらついた目が俺を捉え、威圧してくる。
この感じ……久々に強力なモンスターとの戦闘になってしまったようだ。
「いつだったっけな、小紫が強化した兎のモンスターにボロボロにされたのは。多分こいつはそれ以上のモンスター。それなのに……ヤバイな、ちょっと疼く」
ここ最近はモンスターの討伐をただの作業として行っていた。
それは椿紅姉さんの事もあって戦闘に身が集中していなかったという事もあるが、それ以上に深い階層へ赴くという事がなく、モンスターと戦うという事に対して緊張感を忘れていたから。
緊張、ひりつき……ジェットコースターに乗る前のような高揚感。
「がぁ……」
「来るか」
俺がそんな状況に浸っていると、シーサーペントは口を開けそっと息を洩らした。
すると瞬く間に地面が凍り、俺の足元まで届こうとする。
「『瞬脚』」
俺は瞬脚でその場を離れると凍っていない場所から距離を詰めようとした。
しかし、シーサーペントはこちらの動きを完全に理解しているようで、急かさず広い範囲を凍らせにかかる。
「動き辛っ! おっと――」
瞬脚を何度も使って移動するがことごとく地面を凍らせられ、どうしても動きが鈍る。
あわや転けそうになり、慌ててジャマハダルを地面に突き刺して体勢を整えるが……。
「がぁっ!」
「くあっ!」
いつの間にか近づいていたシーサーペントの尻尾が俺の身体を力強く叩いた。
レベルの差があるからか俺は吹っ飛ばされること無く何とかその場に居座る事が出来た。
致命傷もない。
それでも痛いものは痛いけど。
「こいつ――」
「がぁっ!」
攻撃を受けられた事に怯むことなく、シーサーペントは連続で尻尾を振る。
俺は初撃の段階では腕で顔面と腹だけをガードして、怯んだ所に一撃入れてやる腹積もりだったが、あえて尻尾攻撃に合わせてジャマハダルで突き攻撃を繰り出した。
尻尾に刺さるジャマハダル。
シーサーペントの尻尾からは血が滴っているというのに……。
「がぁっ!!」
「こいつこの見た目で生粋のインファイターかよっ!」
シーサーペントの攻撃は止まる気配を見せないのだった。
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