第160話 海辺

どこまでも続く砂浜。

青い海と雲1つない清々しい空。

その間にある地平線はずっとだって眺めていれそうなほど綺麗だ。


「「ごはーん!」」

「……」


そうだよね。

そんな景色よりご飯の方が大切だよね。


俺も景色を堪能するよりもアイテム入手に尽くさないと。


「ちょっと早いかもだけど、これも飲んじまうか」


俺はアイテム欄から移動の途中で購入したエナジードリンクを取り出すと一気に飲み干した。


このダンジョンに挑むにあたって、ある程度必用な物は買い揃えてきた。

椿紅姉さんに残された時間は多くない。

少しでも早く妖精の花を入手すべく、今回も徹夜は覚悟の上だ。


灰人にももしかしたら数日戻らないかもしれないとメッセージを送ってある。

あの状況だったからすぐに読んでくれるかどうかは分からないが。


「にしても落ち着いた雰囲気だな」


受付嬢の言っていた通り、強いモンスターが出てきそうな雰囲気はない。


A 級以上という制限を設けた原因である記憶の損失。

深く突っ込んで聞かなかったが、完全に出入りを禁止するわけでなく制限程度にしているのはきっとレベルによってその効果の度合いに振れ幅があるから。


それは低めのレベルなら脅威だが、今の俺のレベルであれば恐るるに足らない、はず。


「「あっ!モンスター!」」


海辺からでも見えるモンスターの陰影。

大きさは俺と同じくらいか、少し小さい程度。


海辺という事で海に潜むモンスターが多いのは想定していたが……。


「ああいうモンスターばっかりなら海に入らない限り戦闘にはならない。経験値稼ぎには最悪の場所だな」


今回はアイテムの入手の為に潜ったが、こんなに戦闘に持ち込むのが難しい所ではレベル上げは不向き。

このダンジョンはこれっき――


「「ブクブクっ!!」」


アルジャンとルージュが何かを見つけたのか、楽しそうな声をあげた。

俺はそれにつられて視線を移すと、そこには地面から吹き出る大量の泡が。


もしかしてあれもモンスターか?


「《透視》」


砂に埋もれるモンスター。

いくつもの急所を表す点。


『ハングリークラブ』


砂浜に潜むモンスターの名前が眼前に映し出されると、吹き出す泡と一緒に真っ青で大きな爪が姿を現した。


「アルジャン、ルージュ!一旦そこから離れろ!」

「「うん!」」


危険を感じとった俺は、アルジャンとルージュに退避するように指示した。


それに従ってくれた2人は後方に飛び、モンスターと距離をとろうとする。


だがその爪は想像よりも長く、更に2人を捕まえようとしたのか伸ばすスピードが一気に上がった。


「「あっ!」」

「2人ともっ!」


俺が助けようとする間もなく大きな爪に挟まれてしまった2人。


そしてそれを仲良くみんなで捕食しようというのか、次々と仲間のモンスター達が砂の中から現れ出した。


「蟹の群れか……。アルジャン、ルージュ今回のご飯は御馳走だぞ。『即死の影』」


俺は久々に『即死の影』を発動させ、2人のご飯の用意に取りかかるのだった。

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