第134話 進化なのに
「げぇっ! まっず! でも……」
剣は舌を出しながら進化の薬がまずい事をアピールすると、今度は神妙な面持ちで黙り込み、その場に佇んだ。
「う、ああ!」
「お、おい大丈夫か?」
いきなり呻き声を上げた剣を案じて一色虹一が心配そうに声を掛けるが、剣はそれに答えようとせず、呻き声を上げ続ける。
結局忠利が足を止めてしまっているから、少し時間を使うのは構わないけど……これ大丈夫か?
もしかして、失敗?
薬が身体、というか剣に合わなくて壊れるとか?
最悪の事態を想像して、俺はなんとなく目を背けた。
しかし、その数秒後。
剣の呻き声はぴたりと止んだ。
恐る恐る俺は剣がいるはずの場所に目を向ける。
すると、そこには先程よりも数十cm背が高くなり、どこか逞しさを携えた剣の姿がそこにはあった。
身長は大体180cmくらい。
服装はパリッと決まったスーツ姿。
キュートというよりはクールな姿で、仕事の出来る女性上司といった風貌だ。
見た目だけでは分からないけど、能力も向上しているに違いない。
「ふう。力が漲るわ。……にしてもこれだと運び辛いわね」
剣はそういいながら自分が担いでいた探索隊のメンバーと忠利が担いでいた探索隊メンバーをぽんぽんと掌で叩いていく。
「な!?」
「これって!?」
忠利と桜井さんの驚く声が鳴り響く。
まぁ、そんな声を上げるのも仕方がない。
何故なら、探索隊メンバーの身体が次々とバラバラになっていくのだから。
「お、おい! 何をしてるんだよ!!」
灰人が声を荒げながら剣に近づく。
灰人のその表情、一触即発の雰囲気がその場には流れていた。
「お前、この人達を殺したのか?」
重苦しい空気の中、灰人は確信に触れる質問を投げ掛ける。
すると、剣はふぅっと息を吐きあきれるような表情を見せる。
「違うわよ。これは私のスキル『首残し』。私、処刑剣だから首を斬る以外で人を殺したくないの。私自身の進化レベルが低かったから、HPを削ちゃったり、中途半端に部位を抉ったりしか出来なかったけど、今は一発で完全にバラバラに出来るし、バラバラにした部位をアイテム化も出来る。あっ! もちろん首以外ね」
「えぇ……なんか使い辛くなってないかそれ?」
剣がことの説明をすると一色虹一はげんなりとしながら、剣を見る。
「首に当てさえすれば、威力は今までの数倍よ。あなた、私を使いこなす自信がないのかしら?」
「あぁ!?」
挑発するような剣の態度に苛立ったのか、一色虹一は剣と目を合わせ火花を散らす。
今はそんなことをしてる暇はないっていうのに。
「と、とにかく、殺していないのでしたら問題ありませんわ。アイテムとしてアイテム欄に突っ込めるみたいですし……みなさん! 急いでアイテム欄へ!」
桜井さんが指揮をとって俺達は探索隊メンバーをアイテム欄に突っ込んだ。
人間をこんな風に扱うのは変な気分だが、これは確かに便利だ。
「他の人間もばらばらに……。あら、あなたもバラした方がいいかもしれないわね」
剣はじりじりと忠利ににじり寄る。
忠利。悪いがこの状況で剣を止める奴はいない。
これもいい機会だ。
明日からはしっかり運動してくれ。
「ちょ、まっ、心の準備が――」
「……いっちょ上がりね」
有無を言わせず剣は忠利をバラした。
俺はそんな忠利の身体を急いでアイテム欄に詰める。
痛みとかは無いんだよな……。
「それにしてもすごい薬ね。あなたの剣にも上げた方がいいんじゃない?」
剣は俺を見て提案を促しながら、いつの間にか手に持っていた進化の薬を手渡そうとしてきた。
受け取らない理由もないし、貰えるものは貰っとくが……。
探索者協会に渡す分もちゃんと残ってるよ――
どしゃ!!
その時俺達の頭上の天井が音を立てて落ちてきた。
「ヤバいですわみなさん!!」
「よっしゃ走れええええええええ!!!」
一色虹一の合図と共に俺達は速度を上げて再び走り始めるのだった。
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