第121話 師匠
「もうっ!! あなたはいつもいつも唐突過ぎですわ!!」
「まぁまぁ桜井課長落ち着いて……」
「灰人は落ち着きすぎですの! たまにはきつく言わないと!」
「ははは! お前らはどこでも仲良しだな」
俺の目の前に居たのは良く知った三人。桜井さん、灰人、忠利。
もしかして助けに? でも、魔法紙の効果でここには来れないはず。
そういえば全員階段じゃなく上から――
「じゃぁーま」
「え――」
俺が目の前に現れた3人に驚いていると、肩の小紫の手の感覚が唐突に消えた。
そしてそれと共に近くの壁が大きな音を立てながら少し崩れ、その辺りは砂埃の所為で見え辛くなっていた。
「やっぱり『ちょっとしか』ダメージ入らないよねぇ。ねえ君だよね。あれにちゃんとしたダメージ入れれるのって」
「え? まぁはい」
「じゃ、これ飲んで」
「えっ? んっぐ!?」
いつの間にか俺の背後にへらへらと笑みを浮かべた男性が居た。
取り敢えず悪意は感じないので適当に返事をしていると、口に何かを突っ込まれた。
「うっ! ごほっ! ごほげほっ! きゅ、急に何するんですか!? っていうかあなたは――」
「じゃ先に楽しんでるから後で処理頼むわぁ」
そういうと男性はだんだんと動けるようになる探索隊の人達の元へ駆けていった。
余裕があるっていうか、軽いというか……ってそれどころじゃない!
「やばっ! 早く加勢に行かないと」
「いいえ。薬が効くまでは大人しくしていなさい」
「桜井さん……」
俺が急いで増援に向かおうとするといつの間にか桜井さんが俺の横に居た。
桜井さんは俺の腕を掴み俺が駆け出そうとするのを止めている。
あれ? 桜井さんってこんなに力強かったっけ?
「ふっ!」
「え?」
探索隊人の1人の力のこもった声が聞こえるといつの間にか俺目掛けて攻撃が飛んできていた。
これは灰人が使っていたのと同じ『鎌鼬』。
でも、その速さも大きさも灰人とは比べ物にならない。
この距離じゃ避けれない。
そう思った俺は桜井さんを庇う様に背中で攻撃を受ける体勢をとるが……。
「『アイアンインパクト』」
「『鎌鼬』」
「おお……」
忠利が手に持っていたハンマーが繰り出す銀色の衝撃波と明らかに前よりも威力の高まった灰人の『鎌鼬』がそれをかき消す。
忠利のレベルがそれなりに高いのは知っていたが、あんな状況だった灰人が強くなっているのはなんでなんだ?
「はぁ。まだまだレベルが足りないか。本当は1人であのくらいの攻撃は防ぎきれないといけないんだけどな」
「灰人、お前……」
「驚いた? まぁ、その、俺もあのままじゃないってことさ」
灰人は得意顔でこっちを見ると武器を構えたまま正面で戦っているさっきの男性に目を移した。
どうやら俺の知らない間に灰人も桜井さんもレベルを上げていたらしい。
「具合の方はどうだ」
「忠利……」
「うーん。ぱっと見は大丈夫そうだな。それにしても灰人の奴また強くなりやがって……」
「忠利は灰人がレベル上げしてるのを知ってたのか?」
「ああ。でも輝明にはまだ言わないで欲しいって言われててな。どうだ? とんだサプライズだろ?」
「ふふ。そうだな。というか俺からすれば忠利達がここにいるって事がとんだサプライズなんだけど」
「ああ、その事なんだが――」
「それは私達が『師匠』にちょっとお願い事をしたからですわ」
忠利が言い出す前に桜井さんが奇妙な単語を呟いた。
『師匠』ってことは桜井さん達は弟子ってこと? 誰の?
「まさか?」
俺はすぐさま視線をさっきの男性に移す。
すると、あの人数相手に、しかも倒れていた猩々緋さんを片手で持ち上げ笑いながら戦っていた。
探索隊の人達の攻撃をひょいひょいと余裕そうに躱し、時にはその拳1つで技を殺している。
「あれが私達の『師匠』、S級1位の一色虹一(いっしきこういち)ですわ」
「S級1位!? でも強そうな雰囲気はぜんぜ――」
その時男性、一色虹一が初めて探索隊の1人に攻撃を加えた。
猩々緋さんでもダメージを与えられなかったのに、急所に当たったわけでもないのに、一色虹一の攻撃は相手のHPをほんの僅かだけ減らしていたのだった。
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