第118話 脱出
パリンッ!!
突然周りの景色にヒビが入り、風が流れ込んできた。
レッドメタリックスライムが消えた事によって、外へ誘われているという事だろう。
「くふっ! がふぁっ! けほ、げほっ! 輝く、ん」
「椿紅姉さん!!」
レッドメタリックスライムが消え、地面に伏していた椿紅姉さんが咽ながら俺の名前を呼ぶ。
俺は急いで倒れていた椿紅姉さんの元に駆けより、そして声を掛けた。
「大丈夫? 椿紅姉さん。 待ってて今ポーションを――」
「大丈夫よ。HPはまだ残ってるし、それにモンスターに寄生されてる時より頭がすっきりしてる。私……助かっちゃったのね」
「椿紅姉さん! うっ、うっ……。ごめん、俺、俺……ほんと駄目な奴で……」
「駄目じゃないわ。輝君が居たからレッドメタリックスライムを追い出せた。それに……そんな顔を見せられたら、自分が自分の為に死ぬのはただの我儘かもって……。辛い思いをさせてごめんなさい」
「俺こそ、俺こそ……」
「ふふ、まさかあなたが輝君だったなんて……。男前になったわね」
「うっ……。ぐっ……。あっ……」
ごおっ!!!
泣きじゃくっていると今まで以上に強い風がヒビから流れ込み、俺の体を浮かび上がらせた。
そして風は俺の体をヒビまで運んで行く。
よく見ると、俺だけじゃなく、分身や気を失っていた女性もヒビの中へ吸い込まれている。
「椿紅姉さん!!!」
「大丈夫。今度はまた直ぐに会える。ふふ、そんなに泣かれたら、お世話が大変ね……。輝君、ありがとう」
椿紅姉さんのその言葉を聞くと、体は勢いよくヒビの中に吸い込まれ、遂にその場を後にすることになったのだった。
◇
「う、ぐ……ここは?」
「白石君! やっと気付きましたね!!」
目を開けるとそこには、猩々緋さんが俺の目覚めを待っていた。
俺達が椿紅姉さんの中で戦っている間、外でも激闘が繰り広げられていたのか猩々緋さんはすっかり疲弊しているようだった。
「つ、椿紅姉さんは?」
「ああ、それならあっちで寝かせてます。ポーションを飲ませたので、命に別状はありませんが、他の方々同様まだ目を覚ましていません。早くダンジョンから出て専門の者に診せないといけませんね」
「……そうですか」
俺はゆっくりと立ち上がると、探索隊の人達と椿紅姉さんの元に近づき、その顔を見渡した。
「よかった。全員死ななくて……」
「そうですね。あっと……。そういえばまだ1人拘束中の人が居るので、その人の中からモンスターを吐き出させてくれませんか? 枷は就けてますので安全課とは思います。寝起きすぐに悪いんですが」
「分かりました」
そういえばまだ1人だけ寄生されている探索隊の人を放っておいたままだった。
「う、ぐぁああぁああ!!」
「《透視》『毒の神髄』」
俺は手足に枷を付けられた男性の元に近づくとスキルを発動させ、ジャマダハルを取り出すと急所を貫いた。
すると、男性のHPは紫色に変化し、シルバースライムが飛び出してきた。
シルバースライムは驚きながらも勢いよく駆けだした。
いつもなら、直ぐに殺してしまうところだが、今はそれを追いかける余裕はない。
そういえばあの時のレッドメタリックスライムはどこへいったんだろうか?
「猩々緋さん。俺達が戻ってくるときにレッドメタリックスライムを見ませんでしたか?」
「ああ、それなら下の階に逃げていきま――」
「逃げてきたよ。そう、このシルバースライムみたいに、逃げてきて……」
ごくん。
俺のところまで喉を鳴らす音が聞こえた。
そしてこの声は今回の探索の目的の対象……。
「小紫……」
「と、愉快な仲間たちだね」
声のする方に目を向けると、そこには小紫と明らかに体を支配された人達がこちらを見つめているのだった。
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