第110話 飛ぶ盾

 空中を浮遊する『サクリファイスシルド』は小さくなったことで、俺の中で『壁』という認識から『盾』という認識に変わった。


「……コレハ、ムズカシイナ。スコシレンシュウガヒツヨウカ」


 椿紅姉さんは腕を元の形に戻し、絵を描くようにして指を動かした。

 

 すると『サクリファイスシルド』はまるで生きているかのように空中を飛び交う。

 動きが少しぎこちないのは椿紅姉さんがまだ『サクリファイスシルド』に慣れていないからか……。


 であれば攻撃するのは今しかない。

 それに今の椿紅姉さんの体にはさっきまで俺が背負っていた女性であろう大きな黒い点、というか影のようなものが《透視》で透けて見えている。

 おそらくだが、吸収が進む度にシルバースライム同様内部で分裂させられたり、場合によっては形を変えられたりさせられたりするだろう。

 という事はとにかく早く椿紅姉さんからシルバースライムを吐き出させ、椿紅姉さんを元に戻し、その際に完全に吸収される前の女性を外に吐き出させるしかない。


「《透視》『毒の神髄』」


 俺は《透視》と『毒の神髄』を重ね掛けした。『回避の加護』も発動させたかったが、まだクールタイム中らしく発動出来ない。



「『瞬脚』」



 心許なさを感じながらも俺は『瞬脚』を発動させた。



 ヒュンッ。



 俺が『瞬脚』で間合いを詰めていくと、2つの『サクリファイスシルド』が椿紅姉さんをぴったりとくっつき椿紅姉さんを守った。


「盾でも急所を突け……あれ? ない、だと」


 俺はジャマダハルで『サクリファイスシルド』を破壊しようと急所を探した。

 だが、『サクリファイスシルド』に急所は見えない。

 

 急所が小さすぎくて見逃している……というわけではない。


 『サクリファイスシルド』には急所が無い、のか?



 ガキンッ!!



「白石さん!! 動きを止めてはいけません!! この敵はそんな隙を突いてきます!!」


 背後から猩々緋さんの声と金属のぶつかる音が聞こえた。

 振り返ると、猩々緋さんが残り1つの『サクリファイスシルド』を手に持つ杖で受け止めていた。


 『サクリファイスシルド』はギリギリと音が聞こえる位、猩々緋さんの持つ杖を強く押す。


 しかし金色に輝く杖は折れる様子もなく、曲がる様子もない。

 流石はS級2位の持つ武器。その神々しさについつい目を惹かれてしまう。


「フセガレタ。ダッタラ……」


 椿紅姉さんは全ての『サクリファイスシルド』を俺達から離すと、高速で辺りを飛び回らせた。


「コレナラドウ?」


 高速で飛び回る『サクリファイスシルド』は不規則に俺達にぶつかってきた。

 しかも、こっちが反撃をしようとすればまた空中に逃げる。


 なんともやらしいヒット&アウェイ戦法。


「ちっ!!」


 俺はそんな戦法に苛立ちを感じ、『サクリファイスシルド』を無視して直接椿紅姉さんに攻撃を仕掛けようとした。

 


 ガキン。



 しかし、俺の攻撃は一瞬にして『サクリファイスシルド』に防がれてしまう。


「く、そ――」

「ダイブツカイカタナレタ。デモ、モウスコシレンシュウサセロ」


 攻撃を防いだ隙を突いて俺の腹を椿紅姉さんの拳がクリーンヒットした。

 ヤバい。意識が……。


「白石さん!!」


 ふらふらと倒れ込みそうになる俺を猩々緋さんが受け止めてくれ、俺も何とか意識を飛ばさずに済んだ。


「こんなところで意識を失われたら勝機が無くなります。なんとか私が隙を作りますから白石さんは絶好のタイミングで攻撃をお願いします」

「でも、猩々緋さんの攻撃はダメージを――」

「普通ならそうですね。ふふ……。とにかくお願いします」


 猩々緋さんは不敵に笑うと、椿紅姉さんに熱い視線を送るのだった。

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