第106話 圧殺
「あれ?」
『贋物』を発動させたが、特に俺の体に変化はない。
さっきよりも後ろ辺りにいる土の人形の圧迫が強まった気はするが、それとこれは関係ないだろうし……。
スキルが正常に発動していない? いや、MPは減っているし、そんな事はないはず。
なら効果を発揮する為に何か条件があるのだろうか?
だとしても、スキル名からスキルがどんな内容になっているかが分からない以上それを特定するのは難しい。
「自力で何とかするしか……『剛腕』」
俺は『剛腕』を発動させると、無理やり周りにいる土の人形を引き離そうとした。
せめてこの間に隙間を作ることが出来れば『瞬脚』で逃げ出す事も可能なはず。
「ぐ、おおおぉお!!」
俺は力一杯周りの土人形を押し返すが隙間が生まれるどころか、土人形の圧迫は更に強まる。
ほんの一瞬後に隙間が生じたような気もしたが、『瞬脚』を発動して逃げ出す程の時間も余裕もなかった。
ず、ずずず。
そんなことをしている間にも両端からは壁が迫ってきている。
ダメージ系スキル扱いでない分、『攻撃魔法スキル無効』も『回避の加護』も『ファイブプロテクト』も効果は期待出来ない。
挟み込まれ、圧殺される。
その事が脳裏をよぎり冷や汗が止まらなくなる。
「くっ!! 猩々緋さ――」
俺は仕方なく猩々緋さんに助けを求めようとした。
しかし、その瞬間体の中のシルバースライムが暴れ、急にせり上がってきた。
必死に抑え込んでみたが、その所為で喉に何かが詰まったような感覚と急な気持ち悪さが俺を襲った。
「『ドームシルド』!!」
遂に壁が目前に迫ると、背負っていた女性がドーム状の壁を展開させた。
さっき見た『シルド』というスキルで作った壁と比べると厚みが無いように感じる。
「う、くくぅぅぅ!!」
展開された壁に土の壁がぶつかる。
すると、土の壁の進行が止まりる。
しかし背負っている女性の力む声は苦しそうにも聞こえる。
このスキルによって進行を止めていられる時間は長くはなさそうだ。
「うがぁぁああぁああ!!!」
そう思っていると今度は柿崎さんがどこからともなく、飛ぶようにして攻撃を仕掛けてきた。
複数の腕と剣が更に女性の展開する壁に負荷を掛け、とうとう壁に亀裂が見え始めた。
「くっ。ごめんな、さい」
ぱりん。
背負っていた女性が耳元で謝罪を述べる壁は崩壊。
柿崎さんはその場から退避し、両端の土の壁は両手を伸ばして届く所まで迫った。
「くぁああぁああああ!!!」
最後のあがきで『剛腕』によって強化された腕で土の壁を押し戻そうと力を振り絞るが、流石に無理。
腕はみしみしと音を立て、痛みが走る。
このままじゃ……本当に圧迫死してしまう。
ここまで来たのに、あと少しなのに。
「椿紅姉さん……」
諦めかけ、椿紅姉さんの名前がふと口から零れる。
その時……。
「うがぁぁあああぁああぁああ!!!」
遠くから橙谷さんの叫び声がこの階層中に響いた。
雄たけびではなく、苦しそうな、まさに絶叫というやつだ。
そしてその叫び声が響くと同時に壁の進行は止まり、土人形と共に崩壊し始めた。
「お前は……。これが『贋物』?」
土の壁が消え去り、飛び込んでくる映像。
そこには、俺と同じ背格好でジャマハダルを持った俺よりも少しだけ顔の整った男が、橙谷さんの急所を見事に貫いていたのだった。
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