第84話 侵入

「きっ!」


 俺のジャマダハルが貫通したジャマダハル擬きはモンスターと同じようにして消えていく。


 シルバージャックパラサイトスライムはそれをまずいと思ったのか、バックステップで距離をとろうとする。


「逃がすかっ!」


 俺は攻めるならここだと判断して急いでシルバージャックパラサイトスライムを追い、右手に持つジャマダハルを急所の心臓目掛けて突き付ける。


「きぃっ!!」



 キンッ!!



 シルバージャックパラサイトスライムの持つジャマダハル擬きが俺の攻撃のタイミングと同時に銀色の壁へと変化した。

 完全に変形を完了していなかったからか、ジャマダハルでの攻撃でスライムの破片のようなものが飛び散るが、本体にダメージはない。完全に攻撃は防がれてしまった。


 そして、うねうねと変化は続き今度はシルバージャックパラサイトスライムを包み込み、鎧の姿へと変化してみせた。


「そんな形にもなるのか。だが、俺には関係ない」


 鎧の左下に見える急所。

 俺はジャマダハル擬き同様にジャマダハルでそこを突き、消しにかかる。


「たぁっ!!」

「きぃっ!!」


 しかし、シルバージャックパラサイトスライムは簡単に攻撃を当てさせてはくれない。

 素早い動きで俺のジャマダハルでの連撃を躱し、時にはその手で上手いこと流し、いなされる。


 攻撃が当たらないことにもどかしさを感じながらも俺は攻撃の手を止めない。


 それはいくら攻撃をしても反撃がこないから。

 それに防戦一方のシルバージャックパラサイトスライムの動きは少しずつだが動きを鈍らせている。

 ここで攻めずにいつ攻め――



 にちゃ。



 優勢なのは俺の筈。

 それなのに、その時シルバージャックパラサイトスライムは不敵な笑みを浮かべたのだ。


「!?」


 それを両目が捉えると、背筋に悪寒が走り、俺は本能的に自分の体を後退させた。


「お前、なんで笑って……。つっ。さっきの攻撃のダメ――」


 シルバージャックパラサイトスライムの笑みの理由に思考を巡らせようとすると、足の甲に強い痛みが走った。

 ずっと痛みはあったが、さっきまでは動くのに支障が出るほどではなかった。

 だが、今感じた痛みは今にも大声を上げて、その場でのたうち回りたいほどのもの。


 傷口が広がったからなのか。

 俺は恐る恐る自分の右足に視線を移す。



 じゅる。



 銀色のドロッとした液体。

 それは開いた穴から侵入し、傷口を刺激し……。


「くそっ!!」


 俺は慌てて靴を脱ぎ捨てた。

 

「きききっ!!」

「いつだ!! 一体いつ――」


 さっきの飛沫の様に散ったスライムの破片が脳裏を過る。


 まさかあの時……。

 


 じゅるじゅる。


「くあっ!!」


 傷口から液体、いやシルバースライムが俺の身体に侵入する。

 強烈な痛みが襲い次第に右足の制御がきかなくなる。


「ききききききっ!!」


 俺が悶絶する様子が面白いのか、シルバージャックパラサイトスライムは高らかに笑い、近づく。

 

 このまま、無防備な状態でシルバージャックパラサイトスライムに攻撃を許すわけには……。

 とにかく身体からこのスライムを追い出さないと……。寄生したスライムを追い出す、追い出す追い出す……。


 俺は必死にその方法を考えるが、思いつくのはたった1つだけ。

 その方法に躊躇わない人間はおそらくいない。出来ればそんな事したくはない。

 でも……。


「やっぱりそれしかないよな」

「白石さ――」

「猩々緋さん!! 状態異常回復とHP回復任せました!!」


 流石にまずいと思ったのか駆け寄ろうとする猩々緋さん。

 俺はそんな猩々緋さんの言葉を遮り、大声でお願いをすると、右手のジャマダハルを強く握り、息を整える。


「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ……。いくぞ……3、2、1っ!!!」


 振り下ろされたジャマダハル。

 噴き出す汗と血。襲いかかる痛み。


 そう。

 俺は自分自身で右足を痛めつけ始めたのだった。

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