第62話 同じ匂い
「かぱ」
スキルの実験も済み、俺は10階層に戻ってバグヒポモスとの第2回戦に挑もうとしていた。
「『瞬脚』」
いつの間にか沼が消えていたが、再びそれを出されるのは厄介なので、俺は即『瞬脚』を使い、バグヒポモスとの間合いを詰めた。
『瞬脚』のスキルレベルを上げたからなのか、今までよりも長い距離を詰めれた気がする。
そのおかげもあって、バグヒポモスは沼を作り出す余裕がなく、仕方なくそのまま攻撃を仕掛けてきた。
通常のヒポモスよりも動きが早く、突進にも勢いがあるが敏捷性の鬼となった俺はこの程度を避けるのはわけもない。
俺は突進をさらりと躱し、胴体部分をジャマハダルで斬り付けた。
「かっぱ!!」
バグヒポモスは声を上げ痛みを表すが俺は思っていたのと違う感触に若干違和感を感じていた。
バグヒポモスの胴体はぬめぬめとしていて、どうにも刃が入りずらいのだ。
俺はぬめりを落とす為にジャマハダルを振るがぬめりは中々落ちてくれない。
それどころかぬめりの付着した部分が段々と変色し光沢を失っていく。
「もしかしてこのぬめりが武器を錆らせているのか」
急所の鼻先を狙わなければバグヒポモスは接近戦を得意とする職業にとって天敵という事らしい。
今思えばこのダンジョンがあるビルの雑貨屋に武器用の砥石が販売されていたのだが、それはこういったモンスターに対処するためのものだったという事か。
「くっ! だがまだこっちが残ってる」
錆びたのはジャマハダルの左だけ。右はまだ無傷。
まだこちらの打点を失ったわけじゃあない。
「かぱ」
「≪透視≫」
バグヒポモスは汗の様に沼の元となるドロッとした液体を生み出した俺はそれをまき散らす前に勝負を決めようと、≪透視≫を使う。
しかしバグヒポモスはそれをまき散らそうとせず、その場に垂れ流し、1つの大きな沼を作り俺を近づけまいとし出した。
「『瞬脚』」
仕方なく俺は沼に嵌らない様に『瞬脚』で高く飛び上がると、そのままバグヒポモスに跨った。
バグヒポモスは沼を発生させるために必死だったのか、それとも俺の行動を予想していなかったのか、あっさり跨るのを許してくれた。
俺はそのままジャマハダルで鼻先を何度か突き刺し、バグヒポモスを仕留めると、沼に嵌らないように再び『瞬脚』を使いその場を離れる。
「ある程度性質が分かれそこまで強い相手じゃない……けど、どうするかな、この武器」
俺は錆びてしまったジャマハダルを擦りながらため息を吐いた。
「おっ! 終わってる終わってる! いやーこのボスは苦手だから助かったよ」
その時、階段から1人の男性が現れ、俺に話しかけてきた。
どうやらこの人が依頼主のようだ。
腰に携える剣を見る限り、剣士の職業だろう。
「依頼が無事遂行されているのを確認完了っていう内容をギルドにメールを送っとくから君の方からも報告しておいてくれ。それで報酬を受け取れる」
「探索者自ら探索者協会に依頼ですか? そんな事も出来るんですね」
「俺の場合はちょっと例外的なとこもあって……」
男性は、少し申し訳なさそうに後ろ髪をいじりながら苦笑いを浮かべた。
その態度は気になるが取り敢えず依頼達成一件目。今は喜ぶとしよう。
「と、とにかく助かったよ。ありがとう」
「いえ。依頼ですから。それに俺もこの先にいくつか用があるから正直に言うとついでみたいなものなんですよ」
「このダンジョンに用……。まさか君も『妖精の花』を……」
「いえ、俺は『フィト草』を納品する依頼を受けているだけで――」
「そうなのか! あれはなかなか見分けるのが大変だし、俺も手伝うよ!」
男性は一瞬怪訝そうな表情を見せたが一転して明るく振舞いだした。
『妖精の花』というアイテムが俺の目的じゃないのがよかったらしい。
「そんな悪いですよ」
「探索者同士なんだから遠慮しするなって! そうと決まれば次の階層だ! 俺の目的もフィト草も11階層から19階層の通常階層に生えているものだからな」
「ちょ、ま――」
「そういえば名前がまだだったな。俺は鶯川仁志(うぐいすがわひとし)。君の名前は?」
「……白石です」
「よろしくな。白石君」
「はい」
この強引な感じ……。
俺はどことなく鶯川さんから桜井さんと同じ匂いを感じるのだった。
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