第43話 ブラフ
「ぐ、うぐ、ああ、あかかっ!」
「こいつっ!」
嬉しそうに笑うボーパルホーンラビットの姿に苛立ちを感じた俺は、地面の揺れが治まったのと同時に思い切って攻撃に転じた。
「≪透視≫」
急所は鳩尾、角には青い点。
俺は一先ず角ではなく、鳩尾を狙って懐に入り込もうとする。
ボーパルホーンラビットは夢中で笑っていた為かそんな思惑の俺が近づいても反撃をする仕草が見られなかった。
不気味に思いもしたが、俺はその隙に懐に入り込み、ジャマハダルを突きつけようとした。
「ぐあっ!」
「なっ!?」
その瞬間ボーパルホーンラビットの毛が鋭く、まるで針のように硬くなった。
ジャマハダルが突き刺さる前に俺の腕に何本ものその毛が刺さり、HPが削られてしまった。
俺は自分の攻撃が完全に止められてしまったことでカウンターを警戒し、後ろに飛んだ。
くそ、ダメージとしては大したことはないが、これでは安易に突っ込めない。
「『ヒール』」
桜井さんが俺にヒールを使ってくれたおかげで傷は直ぐに癒えた。
だが、桜井さんには俺以上にダメージを負っている灰人の治療を任せたいところ。
「桜井さん! こっちは俺が引き受けます! その間に灰人の治療を!」
「分かりましたわ」
桜井さんが灰人の元に向かったのを確認すると俺は再びボーパルホーンラビットに向き直した。
状況は最悪。これならいっその事……。
「桜井さん、この状況……それにこのモンスター。治療が済んだら魔法紙で灰人と先に逃げてください」
「えっ? でも――」
「俺もすぐに逃げますから。……こいつは俺達が相手にするには早すぎたかもしれません」
「ぐあぁぁあぁぁ」
今度はボーパルホーンラビットの方から攻撃を仕掛けるつもりらしい。
四つん這いの体勢をとり、何やら力を溜めるように唸っている。
デカい技が飛んでくる。
「そうはさせないっ! 『瞬脚』」
俺は急いで、『瞬脚』を使うとボーパルホーンラビットの頭上へ飛んだ。
あの針のような毛によって生まれるダメージと痛みが俺の突きを鈍らせる。
結局ダメージを受けないと攻撃が当たらないという事なのであれば、いやでも攻撃が鈍らないように落下の勢いを使ってやろうというわけだ。
「ぐあっ」
ひゅんっ!
ボーパルホーンラビットが鳴くと、全身の毛がさっきの腹部と同様に硬くなり、そして一気に射出された。
全方位に飛ばされる毛の針は回避不可。
「つぅっ!!」
俺は咄嗟にジャマハダルで顔を守った。だが他の部位には見事に毛の針が刺さり、俺の攻撃は完全に中断されてしまった。
俺は攻撃をすることなく、そのまま地面に落ち、無様な格好のまま刺さった毛を抜き取っていく。
「くそ、こいつ! あれ?」
正面の辺りにいるはずのボーパルホーンラビットが消えていた。
俺はもしやと思い振り返ると、そこには地面に倒れ、全身に毛の針を浴び、更には頭から少しだけ出血している桜井さんとそれを両手で掴み上げようとするボーパルホーンラビットの姿があった。
「『瞬脚』!!!」
俺は毛がまだ何本も刺さっている状態のまま急いで『瞬脚』を使った。
背後からでは急所を狙えない。
俺は敢えて、急所ではなく、角を狙って飛び上がった。
「たぁああぁ!!」
「ぐあ!?」
ボーパルホーンラビットの毛はゆっくりと生え始めていたが、まだそれだけでガード出来る程生え揃ってはいない。
俺の攻撃は今度は遮られることなく、角に命中した。
角はあっけなく折れ、痛みからかボーパルホーンラビットは桜井さんを掴むのを諦め、その場から跳ねるようにして移動した。
「ぐ、ああ、ああ、うむ、あ、むぅ」
移動した先にあったのはシーフラビットの胴体。
ホーンボーパルラビットは一回捨てた筈のその胴体を拾い上げると、捕食を開始した。
すると、折れた筈の角は瞬く間に生え代わり、HPも回復した。
「死体を食べて回復。俺の適応力に近いスキルか?」
完全ではないがHPが回復したボーパルホーンラビットは、満足したかのように腹をさすり、俺を見た。
その身体は次第に赤みを帯び、その姿に俺の中では警鐘が鳴らされた。
「『身体強化』……お前も使えるのかよ」
ボーパルホーンラビットは再び地面に手をつく。
俺はまた部屋を大きく揺らす攻撃が来ると気付くと、『瞬脚』を使って高く飛び上がった。
「揺れ、ない?」
「ぐあ」
手をつく素振りはブラフだったようで、部屋は一向に揺れない。
そしてボーパルホーンラビットは俺の着地地点に移動すると不敵に笑いながら右手を振り上げて待っているのだった。
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