第37話 小紫雅
「おっ! 気になります? 気になっちゃいます? いやー気になりますよね?」
うっざ。言わせておいた癖に……そんな反応だよ。
「ええ、気になりますわ」
それで、なんで桜井さんはこいつと相性がいいんだよ、
「ふふん! モンスター研究者は探索者協会とは別に直接国からモンスターの調査、研究を依頼された人たちの事なんだよ? 探索者という肩書だけじゃ出来ない、『モンスターの捕獲』、『モンスターの連れ出し』が許可されたちょおぅっとだけ珍しい人、それがモンスター研究者で、僕、小紫雅(こむらさきみやび)なんだよ」
探索者がモンスターをダンジョン外へ連れ出す事は原則禁止となっていたが、そんな例外があったのは知らなかった。
だが、国がそんなことを許可する理由が分からない。
もし、これきっかけでダンジョン外でモンスターが繁殖……なんてことにでもなったら大ごとだぞ。
「君、なんでわざわざそんなことを国が依頼するのかって顔をしているね。その目的は、モンスターを媒介にした新薬の開発、ネズミに代わる木偶(モルモット)の提案、モンスターの軍事利用の提案、エトセトラって感じかな。お偉いさんはモンスターを使って何が出来る事か、その可能性探ってるってわけ」
「軍事利用。国は戦争でもしたいのかしら?」
「うーん。ただ単に他国への牽制に使いたいだけだと思うよ。ほら、ダンジョンって海外にはないし、モンスターっていうだけでなんか恐ろしいイメージを植え付けれるでしょ?」
「そうだったんですわね。あなたって思った以上に偉い人なんですね」
「そうなんだよ! だから雑に扱わないでよ!」
人は見かけによらずってことか。どうやらただの変わった人ではないらしい。
「それで、小紫さんはなんで今兄が放ったゴールドホーンラビットの金角が欲しいんですか?」
「ああ! そうだそうだ! これ本当に貰ってもいいんだよね。ねっ!」
灰人が質問すると小紫さんは急いでゴールドホーンラビットの角を拾った。
「はい。別にいつでも獲れるものなので。でもモンスター自体をダンジョン外に連れて行けるのであれば、一匹丸ごと生け捕りにして連れ帰ればいいのでは?」
「いやー、結局連れ帰ってもドロップ品以外の素材を無理やり取得することは出来なかったんだよ。爪を折っても取得する前に消えて、毛をむしっても取得前に消え、肉塊にしようとしたらHPがゼロになってモンスター自体が消え、上手くいったのは血や唾液位だったね」
外に連れ出しても、出来る事は限られているというわけらしい。
そう聞くと最悪はく製位しか連れ出すメリットはなさそうだ。
「僕の所には調査用として定期的にモンスターの素材が届くんだけど、これを触って、味見して、それが至福の時! 特にまだ見ぬ素材は類まれな快楽を得られるんだよ! モンスター研究者は調査も勿論するけど……。本当はただの素材マニアだったり……」
「……なるほど、調査研究の一環という言葉を都合よく使って、特殊性癖をお持ちのあなたはただ楽しんでいると」
「言い方ぁ! 言い方が悪いなぁ! まぁ間違ってはいないけどね。今日だって、ゴールドホーンラビットの金角が売却所で取引されたって聞きつけて、ここでそれを折れる人を半日以上待ってたり……」
半日以上俺を待ってくれていたらしい。やはりこの人……変態だ。
「それじゃあ、僕はこれを貰ったから外に戻らせてもらうよ。お金は適当にこれで」
そういって小紫さんは何かを取り出し、俺のズボンのポケットに手を突っ込んだ。
雑に放り込まれたが、厚みから察するに結構な金額を貰ってしまったようだ。
「お金なんて……。別にそのまま――」
「気にしない気にしない! 僕これでもお金持ちなんだ。それでいい装備とか一杯買っておくれ。それに、この先、50階層のボスに挑むにはその装備だと厳しいかもだし」
「50階層のボスってそんなに強いんですか?」
「いやー、ちょっと前まではそこまで強くなかったんだけど……。僕がいろいろあの子で遊んじゃったから……。さっきここに来た男の人にも一応注意しておいたんだけど。あっ! そういえば探索者協会にまだ注意メール送信してもらうように頼んでなかったっけ……」
遊んじゃって……。
嫌な予感が過る。
「桜井課長、俺達、やっぱり50階層に行くのは止めた方がいいかも――」
「いいえ……これは強いモンスターに悪戦苦闘のあの男に恩を売るチャンスですわ! こういうのをざまあ展開っていうのかしら? 余計に燃えてきましたわよ!」
流石にビビったのか灰人は50階層に進むことを中断するように提案しようとしたが、ひたすらに前向きな桜井さんによって簡単に却下されてしまった。
まぁ何となくわかってたよ。
それにしてもモンスター研究者の小紫さんか……。
面倒な事になりそうだからレッドメタルスライムや椿紅姉さんの事はあの人に言わないでおこう。
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