第24話 ダンジョン【獣】
「多いな……」
翌日。
俺はダンジョン【スライム】で現在取得出来る10、20、30、40階層のボス討伐の証は全て持っているので、ここ新宿西口にあるダンジョン【獣】にやってきていた。
ダンジョン【スライム】と同じようなビル、内装。
ただ圧倒的に違う事が1つ。
「あっ。すみません」
「いえこちらこそ」
こうして少しぼーっとしているだけで人とぶつかってしまう程、人の数が多いのだ。
ダンジョン【スライム】なんてどんなに人が多くても15人が関の山だったというのに。
「取り敢えず並ぶか」
俺は一先ず受付に出来ていた列の最後尾についた。
その数はぱっと見で40人程。こんなに一度にダンジョンに潜って大丈夫なのだろうか?
「お待たせ致しました! 探索者証のご提示をお願いします」
「はい」
俺は一抹の不安を抱えながらポケットにある探索者証を取り出すと、受付の女性に手渡すのだった。
◇
自然の香りが鼻腔を擽り、生い茂る草花が俺を魅了する。
ところどころ土地が隆起しているところがあり、視界が全て開けているわけではない。
だが、ここはまさに草原。辺り一面に広がる緑が心地よさを感じさせてくれる。
岩や木々があるもののそれはそれでいいアクセントに感じられた。
「ダンジョンの中じゃないみたいだ」
ダンジョン【スライム】はオーソドックスな洞窟タイプで薄暗く、狭さも感じたが、ダンジョン【獣】は相当に広く、太陽のような光が燦燦とフロアを照らしてくれている。
遠くにちらほら探索者が見えるが、この広さのお陰でまるで気にならない。
「それでも入り口付近はまずいか」
俺は後続の事も考えて、少しだけ歩いた。
どこまでも続くかのように感じる草原だが、階段はどこに……。
ボコ。
「ん?」
しばらく歩いて辺りを見回していると足元の地面がボコりと盛り上がった。
ボコボコボコ……がさっ!
「手!?」
盛り上がった地面から姿を現したのは何かの手。
茶色の体毛がびっしりとその手の先に見えた鋭い爪を警戒して俺は後ろに飛んだ。
「がぁっ!」
「モンスターの姿が見えないと思ったらこういう事か」
その手の主はゆっくりと地面から這いだし、2足歩行で俺と対面する。
コボルト。RPGの雑魚と言えばこいつかゴブリンだろう。
スライムと比べて殺意剥き出しの顔に、モンスターとはこういうものだったと改めて実感する。
「がぁああっ!」
コボルトの全身を食い入るように見つめていると、痺れを切らしたのかコボルトの方から攻撃を仕掛けてきた。
「≪透視≫」
俺はすかさず透視を発動させつつ、武器を取り出した。
コボルトはそんな俺にその鋭い爪を突き出し、刺そうとしてくる。
「俺も突くのは得意なんだ」
俺はコボルトの戦い方に親近感を覚え、敢えてその爪先を狙ってジャマハダルを突き出した。
突きと突きのぶつかり合い。
初戦から俺の闘争心を滾らせてくれる。
「がぁっ!!」
「強度も威力も俺の方が上みたいだな」
爪と刃先のぶつかり合いの結果、コボルトの爪が根本付近から綺麗に折れた。
驚きの声を上げるコボルト。俺はその隙を見て赤い点のある胸の中心に爪にぶつけたのとは反対の手に持っていたジャマハダルを突き刺した。
スライムとは違い、肉を突き刺す感触が伝わり、リアルな殺し合いを感じる。
「ぐ、あっ……」
コボルトは胸から血を流し、次第にその姿を消えていく。
「1層の敵は一撃でいけるか」
コボルトのHPの低さを確認しながら、消えていくコボルトに目をやると『+15』という経験値の表示がされていた。
通常の雑魚スライムが経験値1。それの15倍の経験値をこのコボルトは持っていたのだ。
俺みたいにレッドメタリックスライムやレッドメタルスライムが狩れるわけでなければ明らかにこっちの方が効率がいい。
「ダンジョン【スライム】に人が来ないわけだ」
ダンジョン【スライム】が俺だけに都合のいい場所だと認識し、ドロップ品を回収すると、俺は次の階層に繋がる階段を探し始めたのだった。
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