第121話 モール大迷宮へ

 ヴィムたちは着々と準備を進めて行った。

今回のモール大迷宮は、いつも通りサクッと片付けることは出来ないだろう。

だからこそ、準備にも少し時間がかかった。


 ポーションや精霊瓶なども用意してみた。

精霊瓶とは、その名の通り下級精霊が入った瓶である。


 その瓶を割ることで、精霊術を使えない者でも精霊の力を借りることが出来るという優れものだ。

扱うには少しコツが要るのと、多少の危険はあるので使うものは少ない。

しかし、使い方によっては戦いを有利に進めることが出来るのだ。


「久しぶりにあれも使って見るか」


 ヴィムは部屋の机の中から拳銃を取り出した。

久しく使っていないが、手入れはいつも行っていたので十分に使える。


 弾丸には魔法が付与されており、その威力は通常の弾丸の何倍にもなる。

弾丸のそれなりの数を用意したので、足りなくなるということは無いだろう。


 全員の準備が整うまでは三日かかった。


「さて、行きますか」

「はい!」


 みんな気合いの入った表情をしている。

ミサは珍しく、剣を二本帯刀していた。


 ヴィムたちは屋敷の庭へとでる。


「黒竜へ告げる。汝の身は我が元へ、我が命運は汝の剣となる。我が意、我が理に従うのであれば応えよ。《召喚》」


 詠唱が終わると、黒竜がその姿を表す。


『主人、ご機嫌麗しゅう。本日はどうされました?』

「モール大迷宮へ行きたい。乗せてくれるか?」

『もちろんでございます。お乗りください』


 黒竜は体勢を低くしてくれる。

全員が乗ったことを確認すると、黒竜はゆっくりと飛び立った。


 モール大迷宮までは半日もあれば十分に到着出来ることだろう。


「王妃さま、そんなに厳しい状況なのですか?」

 

 ハナがヴィムに尋ねる。


「このままなら、持って三ヶ月ってとこだろうな」

「そう、だったんですね……」

「ああ、死霊術も万能じゃないからね」


 時間を止めていることで、呪いの進行は遅らせることはできるが、根本的には何も解決していないことになる。


『主人、まもなくモールの街へ到着します』

「わかった。目立たない所で降りてくれ」

『承知』  


 時刻はもう夕方になっている。

迷宮へ入るのは明日にすることとしよう。


 モールの街は迷宮から一番近い街である。

この街がモールという名前になったのも、モール大迷宮が一番近い街というのが大きく影響しているらしい。


 迷宮が近くにあるということもあって、モールは冒険者が多い街だ。


「まずは飯にするか」

「はい!」

 

 大衆酒場が街のなかにいくつかあった。

明日の朝から、迷宮に潜らないといけないので酒は控えたが、美味い料理にヴィムたちは舌鼓を打った。


 そして、今日の宿を確保する。


「じゃあ、明日は朝から出発しよう」

「わかりました」


 ヴィムとハナたち三人は分かれて部屋へと向かう。

外は既に暗闇に包まれていた。


 ヴィムはベッドに横になって意識を暗闇へと落とした。

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