第59話 珍しき来訪者

 ヴィムはきた時と同様に飛行魔法で王都に向かう。

高度を上げてしたからは見えない、認識を阻害する魔法を展開する。

流石に、人が飛んでいたら騒ぎになってしまうだろう。


 1時間ほど飛行すると、王都が見えてくる。

そして、ヴィムは自分の屋敷の庭に降り立った。


「ふう。便利なもんだな」


 ヴィムは玄関を開けて中に入る。


「お帰りなさいませ旦那様」


 屋敷に入るとジェームズが出迎えてくれる。


「ただいま。これ、ディオン伯爵からまたもらっちゃった」


 伯爵からもらった茶葉をジェームズに手渡した。


「かしこまりました。それと、旦那様にお客様がいらしております」

「え、俺に? 誰だろう」


 わざわざ俺を訪ねてくる人物などは限られている。


「私も存じ上げない方でしたが、王宮からの紹介状をお持ちでしたので応接間の方にお通しさせていただきました」

「そうか。ありがとう」


 王宮の紹介状を持って来たという事はそれなりに身分が保証されているという事である。

ヴィムが不在でも通して問題ないと判断したのだろう。


 ヴィムは屋敷の応接間へと向かった。


「お待たせ致しました」


 応接間の扉を開いて中に入る。

すると、見覚えのある女性がソファーに座っていた。


「ご無沙汰しております!」


 その女性はソファーから立ち上がった。


「まぁ、座ってよ。えっと、ミサさんだっけ?」

「覚えていて下さったんですね。感激です」


 そこに居たのはヴィムが以前助けた騎士の女性だった。


「それにしてもよく僕がここの人間だって分かりましたね」


 ヴィムはソファーに座りながら言った。


「はい。伝手を使っって調べさせてもらいました」

「そりゃ、すごいな。それで、今日はどんな用件かな」


 ヴィムがそう言うと、ミサは長い金髪を揺らした。


「私を、ここで雇ってはくれませんか? お願いします!」


 そう言ってミサは頭を下げた。


「まあ、とりあえず頭上げて。ちゃんと説明してくれるかな?」

「すみません。私はサイラス帝国で伯爵様の近衛騎士をやっておりました」


 近衛騎士なら王宮からの紹介を得られるのも納得出来る。

近衛騎士というのはそれなりの立場なのである。


 サイラス帝国の伯爵は公爵の数少ない協力者の一人でもある。

表向きは皇帝に忠誠を誓っているが、腹の中では今の皇帝を気に入ってはいない。

利害は公爵と一致しているということである。


「ヴィム様の誰かの立ち上がる姿勢というのは伯爵様や公爵様から伺いました。改めて、すごい人に出会ったのだと」

「それで、どうしてこうなったのかな?」


 ヴィムは今の状況を鑑みて言った。


「私は兼ねてより決めておりました。心から尊敬できるお方に仕えたいと。その方にようやく巡り会えました」

「正直、待遇はもっといいところがあると思うが、それでもか?」

「はい。近衛騎士はすでに辞めて参りました」


 ミサの言葉からは覚悟を感じとることができた。


「分かった。そこまで言うなら断る理由はない。俺と一緒に戦ってはくれないだろうか?」


 ヴィムは右手を差し出した。


「もちろんです。よろしくお願いします」


 ミサと固い握手を交わすとヴィムも気持ちを新たに、覚悟を決めるのであった。

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