第52話 壊れるか、乗り越えるか
『インフェルノ』
ヴィムはドスの効いた声で言った。
すると、炎のボールが数個ほど巨大なスライムに向かって行く。
そして、巨大スライムにぶつかった瞬間、大爆発を起こして火柱が上がった。
「あ、あれはインフェルノ……」
ヴィムの魔法を見ていた魔導士団がが呟いた。
「ほう、あれがインフェルノか。噂には聞いていたが、現実で使える者が居るとはな」
カミル騎士団長は驚きを通り越した表情を浮けべていた。
インフェルノは魔術の中では最上級に位置する。
帝級魔法というものだ。
しばらくして、炎の柱は収束した。
そこに、魔獣や巨大スライムの姿は跡形も無く消え去っていた。
「終わりましたよ。周囲のマナ濃度も下がってきていますし、大丈夫だと思いますよ」
ヴィムは少し離れた所で立っているカミル騎士団長に声をかけた。
「わ、分かりました」
「じゃあ、あとは残党の討伐としましょうか」
ヴィムがそう言うと、カミル騎士団長が的確に指示を出して行く。
索敵魔法の効果範囲を森全体へと広げた。
これにより、少し精度は落ちるがヴィムの索敵精度なら少し落ちたところでも問題ない。
「まだ、森の東半分にはスライムがかなり残っていますね」
「分かりました。そっちに少し多めに部隊を編成します」
カミル騎士団長が再度指示を出した。
「じゃあ、僕らは西側を殲滅しに行きましょうか」
魔獣は一定時間が経過すれば自然発生してくれる。
適度に間引きをしておかないと、冒険者が少ないラーディアの街ではいつか問題になりかねない。
ヴィムたちは索敵魔法に引っかかったスライムや魔獣を片っ端から倒して行く。
そして、数時間後にはヴィムの索敵魔法の効果範囲から魔獣やスライムの数が著しく少なくなった。
「こんなもんですかね。索敵魔法に引っかかる数はもう少ないので間引きとしてはこのくらいでいいと思います」
ヴィムが剣を振るって魔獣を切り裂いていたカミル騎士団長に声をかけた。
「分かりました。それぞれの部隊を招集します」
カミル騎士団長により散らばっていた部隊は招集され、撤収となった。
馬車を停めてある所まで移動すると、そこからは馬車でラーディアの街へと移動する。
「それにしても、ヴィムさんは帝級魔法まで使えたんですね。さすがはSランクになるほどのお方だ」
「帝級魔法は威力が強すぎるので緊急性を必要とする場合しか使わないようにはしてるんですけどね」
帝級魔法の威力は、街一つを余裕で吹っ飛ばすくらいにはあるのである。
数十分ほど馬車を走らせていると、ラーディアの街に到着した。
ヴィムはハナに手を貸して馬車から降ろした。
「今日は、ここに一泊して明朝より王都へと帰還します。ゆっくりおやすみください」
「ありがとうございます。カミル団長もお疲れ様でした」
そう言うと、それぞれ宿の部屋へと戻る。
「ハナ、よく頑張ってくれた。今日もすごく助かったよ。じゃあ、おやすみ」
「はい! おやすみなさい!」
ハナは優しい笑みを浮かべながら言った。
「最近、ハナに笑顔が戻ってきたな」
部屋のベッドに横になりヴィムは思った。
最初、引き取ってきた時は目に光が入っておらずに笑顔もなかった。
しかし、こうして一緒に旅に出たりすることによってハナも心を開いてくれている。
これは間違いなくいい予兆である。
壊れるか、乗り越えるか。
大切なものを失った喪失感とはそれほど大きなものである。
ハナは壊れる方に傾いていたのかもしれない。
それが、ヴィム・アーベルという男との出会いによって少し希望を見出したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます