第31話 初戦闘、初連携

 ヴィムとハナは索敵魔法に引っかかったポイントへと到着した。


「これは、酷いな」

「ですね」


 そこには小型のドラゴンが数体存在した。

小型と言ってもヴィムの身長よりは大きい。

あくまでも、ドラゴンの中では小さいといったレベルである。


「あれは、まずいな」


 そこには、騎士服に身を包んだ女性が膝を付いていた。

服はボロボロになっており、戦闘の跡が垣間見える。


 このままでは確実に女騎士の方が危ない。


「やるか」

「はい!」


『断絶結界』


 ヴィムは女性騎士の周りを囲むように結界を展開した。

現れた結界に驚いたような表情を浮かべていた。


 これで、騎士の女性がドラゴンの被害に遭うことはない。


「ハナ、俺が援護するから前衛を頼む」

「了解です」


 ハナは剣を抜くと、ドラゴンに向かって突っ込んで行く。

ドラゴンは口からブレスを放とうとしていた。


 ヴィムはハナの前に物理結界を展開し、ドラゴンの攻撃を弾き飛ばす。


「はぁ!!」


 ハナが剣を振るうと、ドラゴンの首が切断され、絶命した。


「おお、やるな。俺も負けてられないよな」


 ハナの攻撃を見ていたヴィムにも火が付いてしまった。


『爆ぜろ』


 そういうと、ドラゴン3体の足元あたりから大爆発した。


 爆風からハナを断絶結界で守る。

ヴィム自身はこの程度では別に大した問題ではなかった。


「終わったな」


 今のヴィムの攻撃でドラゴンたちは吹っ飛んで行った。


「お疲れ様ー」

「まるで出番がありませんでしたよ」


 ハナが少し落ち込んでいるような雰囲気を出した。


「そんなこと無いよ。ハナも一体倒したじゃないか」


 初めての実戦、初めての二人の連携としては上出来だろう。


 そう言うと、ヴィムは女騎士の方へと視線を移した。

展開していた断絶結界を解除する。


「大丈夫……じゃなさそうだな」


 よく見ると、ぼろぼろの騎士服に加えて至る所から血を流していた。


『ヒール』


 ヴィムは女騎士の額の位置で手をかざすと、回復魔法をかけた。

女騎士の傷はみるみるうちに塞がり、流れていた血も止まった。


「痛く、無い……」


 女騎士は驚いた様子で視線を上げた。


「勝手だが、回復魔法をかけさせてもらった。大丈夫か?」

「これが回復魔法か。感謝する」


 立ち上がった女騎士は言った。

この世界で回復魔法は使える人間は限られている。


 魔術師であっても適正がなければ使えない。

そんな、回復魔法だがヴィムの魔法はそこら辺のものとは違う。


 先ほどはただのヒールだが、通常のヒールよりも効果が高い。

これには何か理由があるはずなのだが、よく分かっていない。

おそらく、ヴィムの保有する魔力量などが関係してくるのではないかと思っている。


 他にも、エクストラヒールなどもある。

これは回復魔法の最上位に当たる。

ヴィムはこれも使うことが出来る。

エクストラヒールが必要になる場面などは滅多に出くわさないが。


「いや、俺は当然のことをしたまでだ」

「本当にありがとう。私はサイラス帝国の貴族に仕える騎士でミサと申します」


 サイラス帝国の騎士。

下手に関わり合いにならない方がいいかと思った。


「ヴィムと申します。では、私たちは先を急ぎますので」


 ヴィムはハナを連れてその場から離れようとした。


「あの、せめて何かお礼を」


 騎士というのは誇り高き人間だ。

助けてもらったにも関わらず、なにもしないという訳にも行かないのだろう。


「私は、レオリア王国の国王の後ろ盾の元に動いています。もし、私が窮地に陥った時はその剣のお力をお貸し願いたい。これは、貸しということで」


 ヴィムにはレオリア国王の後ろ盾がある。

何かあってもあの国王なら何とかしてくれるだろう。


「分かった。その貸し、確かに借り受けた。貴殿が窮地に至った時はこの剣を振るうと約束しよう」

「ありがとう。それじゃあ、俺たちは急ぐので」


 ヴィムはそう言うと、ハナをお姫様だっこで持ち上げた。


「捕まってろ」

「は、はい」


『縮地』


 ヴィムがそう口にすると、馬車の位置まで一気に戻った。


「あ、待って……」


 ミサがヴィムにそう声をかけようとしたが、その時には移動してしまっていた。


「ああ、行ってしまったか」


 高度な魔術に、断絶結界。

それに、レオリア国王の後ろ盾の元に動いていると言っていた。

レオリアは実力主義国家。

そんな国家で国王陛下が後ろ盾になるという人物、それがヴィムだ。


「もしかすると私は、とんでもない方に借りを作ってしまったのかもしれないな。そんな方が陥る窮地とはいかほどのものか楽しみだ」


 ミサは傷が完全に治った自分の体を眺めて言った。



 ♢



「あの、今のは?」


 ハナが驚いた様子で聞いてきた。


「縮地っていう仙術の一種だ。距離を縮めることによって一瞬で移動したように思う術だな」


 ヴィムはハナを降ろして言った。

これに関しては他に使えるという者をヴィムは見たことが無かった。


 なにせ、これは魔法とは違う技術だからだ。


「まあ、それはそれとして先を急ごうぜ」


 ヴィムは馬車へと乗り込んだ。

その後にハナも続いて馬車へと乗る。


「よろしくお願いします」


 ヴィムが御者台に座っているロルフに声をかける。


「かしこまりました」


 馬車はゆっくりと動き出した。                                

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