第20話 皇帝の苦悩②
ヴィムが居なくなって一年と少しが経過していた。
やはり、帝国は魔術が衰退しているように感じる。
「公爵様、ご報告がございます。ヴィム・アーベルの行方を掴みました」
公爵の直属の部下が報告を上げて来た。
「ほう。それで、ヴィムのやつは今どこにいる?」
「公爵様の予想通り、レオリア王国へと入ったようです」
「やはりか」
公爵は最初から予想はしていた。
その予想が的中したという訳だ。
「それと、もう一つ重大な報告がございまして」
「なんだ? 言ってみろ」
「ヴィム・アーベルがSランク冒険者に認定されたそうです」
「マジか……」
公爵は唖然としてしまった。
まあ、ヴィムの実力ならSランクに匹敵するとは思う。
しかし、どう転んだら他国でいきなりSランクとはどういうことなのだろうか。
「これは確かな情報かと」
「だとしたら、まずいことになったな」
Sランク認定されたということは、遅かれ早かれ皇帝の耳に入るはずである。
これでは、自分で情報を止めている意味がなくなってしまう。
「ええ、もう皇帝の耳には入っているかもしれません」
「分かった。お前は引き続きヴィムのことを調査してくれ」
「承知しました」
直属の部下は公爵も元を去った。
「そう来たかヴィムよ。これは面白いことになりそうだな」
公爵は不敵な笑みを浮かべた。
♢
「皇帝、ご報告ございます」
皇帝の配下の一人が謁見をしていた。
「今度は何だ?」
「ヴィムが、ヴィム・アーベルがレオリアでSランク冒険者に認定されました」
配下は息を切らしながら言った。
よほど急いできたのだろう。
「何!? それは本当なのか?」
「はい、レオリア国王からの宣言がありましたので、間違いないと思われます」
「嘘だろ……」
正直、嘘だと思いたい。
何をどうしたらこのスピード感で物事が動くのだろうか。
「どうなさいますか?」
「もう、知らん! 放っておけ!!」
「よろしいんですか?」
皇帝は考えたくなかったのだ。
確かに、あの力は脅威だった。
だから、幽閉という手段を取ったのだ。
それが蓋を開けてみたら、迷宮を脱出して隣国であるレオリアでSランク資格を取得してしまうとは誰が想像したことか。
「まあ、何か策は打つべきなのかもしれないがな。お前は下がっていいぞ」
「失礼いたします」
ヴィムが居なくなってから若い世代の魔術師が育たなくなったのも事実であり、魔術技術は衰退して来ている。
ここで、何もしないで見ているだけという訳にはいかないだろう。
騎士は優れた人間が揃っているが、宮廷魔術師は新入りがあまり期待できない。
ヴィムがいるから宮廷魔術師を志した人間からしたら、目標とする人物が居なくなったので、それも当然なのかもしれないが。
皇帝は頭を悩ませた。
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