第13話 経済の魔王

 帝国から大量の融資を得た上、機関車とレールを工房ごと購入した昭弥達は、すぐさまルテティア王国へ戻り事業の立ち上げを始めようとした。

 しかし、やるべき事がまだ残っていた。


「よし」


 昭弥は気合いを入れて次の会談の準備をしていた。


「本当に大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だよ」


 王城の一室で昭弥は客人を待っていた。


「相手は鬼でも魔王でもないんでしょう」


「はい、そうです。場合によってはそれ以上の存在ですから」


「そうなのかい?」


「ええ、それだけの存在です。シャイロック様は」


 シャイロック商会会長、ロレンツォ・シャイロック。

 代々、東方との中継貿易で巨万の富を得てきたシャイロック商会の十代目。

 初代会長は初代ルテティア国王とともに入り、代々財政面などで多額の支援を行って王国を陰から支えている。


「特に今の当主は、明るい性格からは想像出来ないほどのやり手です。継いで数年で商会を倍の大きさにした英傑です。もし、下手にへそを曲げられたら、王国は崩壊します」


「でもその時はシャイロックも一緒だよ」


「そうでしょうか?」


「さて、向こうが来たようだよ」


 勢いよく目の前の扉が開いた。


「やあ、こんにちは。いや、初めましてですね。シャイロック商会で会長をしておりますロレンツォ・シャイロックです」


 入って来たのは快活なナイスミドルの四〇代男性だった。元気よく躍動的に動くので不快感は無く、むしろある種の爽快感がある。


「初めまして玉川昭弥です。姫から事業を立ち上げるよう仰せつかっており、その相談でシャイロック様にお話しが」


「ほほう。鉄道事業ですな。是非とも私たちにも一枚噛ませて貰いたいものです」


「勿論です。ですが、その前にやって欲しいことが」


「何でしょう」


「銀行を作りたいと思いまして、その資金を出して欲しいのです」


「銀行? いったいなんですか、それは?」


「少々長いお話しになるので、どうぞお座りに」


「いえ、結構。話を聞かせて下さい」


 そう言って、シャイロックは昭弥に近づいて来た。


「はい、では私はこのままで説明させていただきます。銀行とは簡単に言うと、人々からお金を預かり、それをお金を必要としている人に貸すのが主な仕事です」


「ふむ、両替商と同じですね。わざわざ作る必要は無いのでは?」


「いえ、両替商とは違います。両替商は、お金の両替が主で預金は片手間でしょう。銀行はお金の貸し借りが主です。他にも為替の取り扱いや決算も行いますが」


「それこそ両替商では?」


「いえ、違います。これから作る会社にも必要です」


「何故です?」


「金のやりとりが楽になる上、増やせるからです」


「ほほう、どうやってですか?」


「まず、銀行に会社や工房が口座を作ります。そこにお金を預けるのです。そして、支払いが必要になったとき、例えば会社が工房にお金を払うとき、銀行にいくら工房に払って欲しいと頼むと会社の口座から工房の口座に移すのです。もちろんその際には手数料を貰いますが」


「今も、為替などでやりとりが行われていますが」


「しかし、同額の為替は少ないでしょう。足りない分は信用貸しで行っているところもあるでしょう。そのような事をせず、銀行の中で全て直接行えるようにするのです」


「ふむ」


 シャイロックは考え込んだ。確かに今、この世界で行われている決済方法は、双方が同等の金か債券、為替を持ってきて支払う方法が主だ。為替による決済も、他の両替商とやりとりをして行っているところがある。

 そんな煩わしい方法がなくて済むなら確かに良い。


「では、金を増やすとはどういうことでしょうか?」


 シャイロックは用意された椅子に座って昭弥の話を聞いた。


「簡単です、貸し借りを行えば増えます」


「どうしてですか?」


「例えば金貨一〇〇枚を銀行に預けるとしましょう。預けた人Aには預かり証が、銀行には金貨一〇〇枚があります」


「当たり前では」


「ええ、しかし、銀行と預けた人Aの資産は合計すると二〇〇です」


「うん? どういうことだ」


「簡単です。預けた人は確かに現金はないが銀行内に金貨百枚がある。銀行には現金百枚がある。二つを合計すれば二〇〇になる」


「……馬鹿らしい計算に聞こえるが。騙されているようにしか聞こえない」


「しかし、預けた一〇〇枚は盗まれたわけではありません。いつでも引き出せるなら問題ないでしょう。資産は減っていないのと同じです」


「確かにそうだな。きちんと返ってくるなら問題ない」


「ご理解いただけて良かったです。そして銀行は、その中から九十枚を他の人Bに貸します。すると銀行には、九〇枚分の借用書と十枚の現金があり、計百枚。借りた人Bには現金が九十枚。これだけで銀行とBの資産は合計百九十枚。そこにAの資産、百枚分の預かり証を加えると富の合計は二九〇枚。たった百枚の金貨が三倍近くに増えました。どうです」


「確かに君の計算だと増えるね」


「そして借りた人Bは借金を返すために九〇枚を元手に商売をします。商売をして商品を買うときには支払いを行います。支払い相手Cが銀行に口座を持っていれば、そこへBは支払代金、金貨九十枚を入れます。預けた人Aは金貨一〇〇枚の預かり証、銀行にはAとCから預かる現金一〇〇枚にBへの借用金金貨九〇枚、Cには銀行への預かり証金貨九〇枚分。全てを合わせると三八〇枚です。どうです、たった一〇〇枚の金貨が四倍近くに増えています」


「なるほど借りた金と預けた金を合計すれば確かに金は増えるね」


「はい、これを信用創造と言います」


 現代社会でも、金融や経済ではこうしてお金が増えている。

 銀行が顧客から預金を他の顧客へ貸すことで、一枚の金貨を預金と貸付金をそれぞれ一枚ずつ増やし、二倍にしているのだ。

 しかし、ここには欠点がある。


「だが、重要な二つの点を見逃している。一つは預ける金が何処にある。そして預かっただけの金を貸す相手、それもきちんと支払ってくれるところがあるのかね」


 目を細めて鋭い支援を昭弥にシャイロックはぶつけた。

 昭弥は、そう思った。今言った言葉はまさしく昭弥の話した経済システムの要点であり弱点であるからだ。

 貸し借りが成立しているのは、返せる当てがある、つまり成功の見込める事業がなければ、貸し借り事態が成立しない。もし、返済不能になれば、金は返されず、銀行は預金を返すことが出来なくなるし、預金を預けた人は資産を失うことになる。

 こうなれば機能不全でシステムは成り立たない。

 そして二つ目の指摘である原資となる金がなければ、このシステムを動かすことは出来ない。

 短時間でこのシステムを理解し、弱点を看破するとは。さすが化け物と呼ばれるだけのことはある。

 だが昭弥は、落ち着いて答えた。


「はい、正にその点が今回の相談です。まず預ける金ですが、王国が出します。帝国からの融資もここに加えます。そして貴方方、ルテティアの商人からも出して貰いたい」


「儲かるならやぶさかではない。しかし、帝国からの融資だけで一億も有るのだぞ。王家や我々からの資金を足しても、その三倍の額になるだろう。それだけの金額を借り入れ、利益を出し、返済できる事業があるのかね」


「それが二点目の答え、鉄道です。鉄道会社を作り、銀行から資金を借りて、敷設し運賃収入から返済します」


「なるほど、しかし、鉄道がそれだけ儲かるのかね」


「はい、儲かりますオスティアまで鉄道を敷きますから」


「オスティアに?」


「ええ」


「需要はあるのかね?」


「はい、帝国本土への貿易品です」


「今も十分にあるが」


「満足出来ないでしょう。川船から幾度も積み替えていては余計な経費がかかりますから」


 昭弥の言葉にシャイロックは初めて黙った。

 事実、海から来た商船から川船へ、川船から川船へ、川船から馬車に乗せ替えるとき、人手はいるし商品を落としたり、小麦などは溢すなどして無くなる事がある。時には運ぶ人間が盗んで行くこともある。


「ですが、オスティアまで鉄道が敷かれたら話は別です。オスティアで積み込めば、一挙に帝国本土どころか帝都まで運ぶことが可能です」


「そんな事が出来るのかね。王国鉄道と、帝国鉄道ではレールの幅が違うが。王国鉄道から帝国鉄道へ載せ替えるときの経費がかかっては意味が無い」


「大丈夫です。王国鉄道のレールを帝国鉄道に合わせます」


「何?」


「帝国鉄道に合わせて改軌します。これでオスティアで一度貨車へ積み込めば、途中で積み替えることなく帝都に運ぶことが出来ます」


「それは素晴らしい。願ったり叶ったりだ。通行料も安くしてくれよ」


「え? あ、自ら列車を走らせるつもりですか? それは出来ません」


「何故だ?」


「鉄道会社が自ら列車を走らせます。貨車はお貸し出来ますが、基本的に王国鉄道が所有し王国鉄道が管理運行します」


「どうしてだね」


「安全確保と、本数確保の為です」


「今のままではダメだと」


「はい、馬車と混在していますし、途中でトラブルが起きたら問題です。だから全て設立する鉄道会社が行います。貴方方商家は鉄道会社の貨車に積み込むか貨車を借りて列車に引いて貰って運ぶのです」


「それが必要なのか?」


「はい、一刻(帝国の時間で昭弥の世界の一時間に相当)に四本。最終的には一二本以上走らせたいので」


「いまでもそれ以上の本数が走っているが」


「いや、速度も速くしたいので、オスティアからセント・ベルナルドまで一日か二日で結びたいので」


「一日か二日だと!」


 シャイロックは、椅子から立ち上がって前のめりに叫んだ。


「そんな事出来るのかね」


「はい、現在の機関車でも十分速度が出せれば可能です」


 今では船と鉄道を使っても積み荷の輸送に一週間か十日はかかる。

 それが一日か二日で輸送出来るとなれば、商売のスピードが速くなる。

 簡単に言うと、輸送の期間が五分の一になれば、商売のサイクル、収入が入ってくる回数が五倍増える。単純計算で商売の規模が五倍に増えるのと同じだ。

 勿論、仕入れと販売の関係もあるから単純に五倍には増えないが少なくとも商機が増えることに違いはない。


「それは素晴らしい。そんなに素晴らしいのなら我々も銀行を作り、融資したいものですな」


「じつはそれをお願いしに来たんです」


「と、言いますと?」


「シャイロック様に王国の商家を説得して各商家に銀行を作って貰い、鉄道会社に融資して貰いたいのですが」


「そうしたいのですが、我々にも資金がありませんな」


「資金なら王家にあります。帝国から融資された資金が」


「又貸しすると」


「はい」


「……王家が直接貸した方が、儲かるのでは」


「いえ、王国全体が盛り上がらなければ意味がありません。そのため、商家に資金が行くように又貸しを行うのです」


「確かに、この方法なら王家だけでなく商家も設立した銀行を通じて儲けることが出来ますな」


「それに直接というのは確かに利益が出ますが手間がかかります。相手が返済できるか審査した上で貸し出し借金を回収しなければなりません。しかし、その相手を最少にすれば手間は省けます」


「我々に手間を押しつけようというのかね」


「適任者であると考えているからですよ。王国よりも、商売に詳しく何処に金を渡せば儲かるか知っているでしょう。十分利益がでるはずです。それに、こちらも手間が省ける分、金利はお安くさせて頂けます。なにより、銀行の設立は簡単に出来、融資もし易いでしょう」


「解りました。説得してみましょう」


「あと、融資には三つほど条件が」


「何でしょう」


 シャイロックは、目を細め昭弥を見ながら訪ねた。


「融資は王国が作った銀行、王立銀行を通じてお願いします。そして融資は銀行券でお願いします。そして銀行の運営は王国の定める銀行法に基づいて設立、運営して貰います」


「王家も銀行業務に入られるとこちらの銀行にも影響がでますが」


「いや、ご心配なく。王立銀行の融資先は、新たに設立される各銀行です。各銀行に足りない資金を融資し、それを元に各銀行が会社に融資するのです」


「なるほど、元手を提供してくれる窓口というわけですか。ですが、銀行券とは」


「金貨を直接渡すのは手間がかかるので、金貨一枚、五枚、十枚、五十枚、百枚と切りの良い金額を書いた銀行券、為替を発行します。それをお渡しするので、それを融資して下さい」


「金貨は王家から一歩も出ないわけですか、しかし納得するでしょうか?」


「納得して貰えます。何しろ便利ですから。王立銀行に持って行けば同額の金貨と交換されるのですから」


「本当ですか?」


「ええ、何しろ王立銀行にある金貨の額しか発行しません。更に発行する必要が出てもきちんと保有している金貨の何倍かを公表します。そして全額を保証します」


「保証出来ますか? 密かに倍額発行している可能性も有るのですよ。それに換金不能になるのでは?」


「大丈夫です。何しろ王国には徴税権があります。万が一、足りなくなっても徴税すれば大丈夫です。何しろ、支払った金貨も徴税で王家に戻ってきて渡すのですから」


「民から吸い上げるのですか」


「徴税は国家の権利です。それに為替の支払い不能には避けたいでしょう。何より確実な担保が商家には必要でしょう」


「しかし、我々にメリットがあるのですか?」


「あります。金貨数万枚を持ち運ぶ手間が省けます。紙切れですから、持ち運ぶ手間が違います。また押しつけるのですから、手数料は低率にします」


「それなら使っても良いでしょう。誰もが何処でも使えるのは便利です。しかし、上手く行きますかね。粗がありますが」


「紙幣の換金は王国が保証します。例え準備金が不足しようとも徴税によって賄います」


 現代の国家において通貨の信用があるのは国が徴税権を持っており、万が一のとき徴収した莫大な税金で通貨を保証すると思われているからだ。

 その仕組みをルテティアでも行おうと昭弥は考えていた。


「なるほど、王国が保証する小切手という訳ですか。それならば価値はありますね」


 シャイロックはひとまず受け入れる事にした。


「ですが王国内でしか通用しないでしょう。私たち商家は、帝国各国や外国とも取引があります。王国内だけで通用する為替を持たされても」


「大丈夫です。王都やオスティア、国境に換金場所を設けます。何より、帝都に支店を設けますから。帝都で手形に換金して、オスティアに運べば支店で換金されますよ」


 現在東方貿易のルートはオスティアで金で香辛料を購入し、帝都に運び込み金で売ると言う方法だ。

 金は帝都から運ぶ必要があるが、それが帝都の支店で換金させることにより運びやすくなる。

 しかし、帝都と王国との交易もあり、こちらは鉄道によって王国からの流出が多い。ある程度の金の備蓄が帝都と王都、オスティアに必要となる。


「それだけの換金用の金貨があるのですか? いや待てよ」


「はい、帝国から融資された金貨一億枚が帝都にあります。多少目減りしましたが。まだ八千万以上あります。取引量には十分では?」


 王国商家の殆どは帝都と取引がある。取引に使えるのなら、それも王家の保証付きとなるのなら願ったり叶ったりだ。


「確かに。しかし、銀行法は?」


「はい、銀行の設立には王国の認可が必要である。王立銀行との取引は認可された銀行のみとする。更に銀行の経営が正常かどうか監査を行う。以上の三点を基本にさせて貰います。貸すのですから当然だと思いますが」


「つまり、王国がこの国の経済を管理下に置くと言うことですな」


 シャイロックの言葉は短く的確だった。

 経済の要となる銀行は、自由に経営出来るが、国の監視がある。そして金を借り受けられるのは銀行のみ。そもそも銀行は国の許可が無ければ設立出来ない。

 全てが国に持って行かれる。


「ええ、金の流れを、量を調整することが出来る。しかし、金をどう使うかは各銀行の裁量に任される。そして今までに無いほどの量の金を使って商売が出来るようになる。それは商人の力を、限界を試せる、またとない機会では?」


「……ふははははは。これは驚いた。あなたはどうもギャンブラーのようだ」


「これだけの事業を行うのです。一寸したギャンブルですよ。ただ、負けないように幾つもの手を打っていますが。それが純粋なギャンブルとは違う点ですが」


「いや、勝つためにありとあらゆる手段を取るのは良いことです。ただ、私からも条件を付けさせて下さい」


「何でしょう?」


 昭弥は緊張した。とんでもない無理難題を吹っ掛けられるのでは、と。説得に失敗したのか、計画に乗らずに済むようにあえて吹っ掛けてくることも十分考えられる。


「王立銀行のトップですが」


「総裁ですか?」


「はい、その初代総裁に私を」


「え?」


 とんでもない提案に昭弥は驚いた。

 シャイロックが言ったように王国が王国の経済を管理することになる。そしてその要が王立銀行であり自分をそのトップにしろというのだ。

 つまり、シャイロックが王国の経済を支配するのと同じ事だ。


「確かにそれは凄い。是非にと言いたいところですが」


「何か問題が? 王国の商家を説得出来るのは私しか居ないと自負していますが」


「それは勿論です。でなければ相談しません。ただ、もう一方の取引相手である東方諸国とも商談しなければ」


「と言いますと?」


「簡単に言えば、東方諸国にも王立銀行の支店を置いて取引を行いたいのです。王国の商家の商売が上手く行くように東方諸国にも作りたいのです。その原資、現地通貨の調達をお願いしたいのですが」


「はっはっはっ、その程度のことお安いご用です」


「あと、総裁となるとあなたの商会に有利な条件で融資することは出来ません。公正中立で王国の経済のためだけに融資することになりますから」


「解っております。丁度息子共も独り立ちするには良い頃合いです。息子に譲ってこちらに専念しましょう。息子共には、これからは親子関係はなく、商売人同士の関係になる、死ぬ気でかかってこいと言っておきましょう」


「ええ……」


 あまりの即断に昭弥は驚いた。


「では、早速原資を集めて参ります。王国と東方諸国双方から金を集めてきます。総裁職の件よろしくお願いしますよ」


「も、もちろん」


「では」


「あ、シャイロックさん」


「何でしょう? 他にも条件が」


 立ち上がったシャイロックを昭弥は止めて尋ねた。


「どうして、引き受けようと思ったんですか」


「だって楽しそうじゃないですか」


 笑いながらシャイロックはあっけらかんと答えた。


「一商家では物足りないと思っていたところです。王国の経済を操るどころか、帝国や東方諸国とも互する立場に立てる。これ以上楽しいことなど早々無いでしょう。そんな楽しい事を放り投げるなんて私には出来ません」


「はあ」


「では」


 といって、入って来たときよりも更に激しく活動的になって部屋を出て行った。




「ふひーっ」


 扉が閉じたのを見てから昭弥は椅子に倒れ込んだ。


「疲れた」


「お疲れ様です」


 セバスチャンは紅茶を入れて昭弥に渡した。


「仕方有りませんよ、あれほどの豪傑を相手にしたんですから」


「いや、疲れたのはそこじゃない。いきなり王立銀行総裁を求めてくるなんて」


「かなり頭の切れる方ですね」


「ああ、セバスチャンの言うとおり油断ならない人だった」


 口ではああ言っているが、何らかの方法で自分の商会に利益が回るようにするに違いない。


「よろしかったのですか」


「うん、心配だけどこれ以上無い人材である事も確かだ。諸外国から資金を集めることが出来れば合格だよ。勿論、監視に王国から人を出す必要がある。これはこれで一つの懸案が解決して良かったよ」


 セバスチャンが入れてくれた紅茶を飲み干し昭弥は、ひと息吐いてから宣言した。


「さあ、いよいよ。本番だ。王立銀行が出来たら、各種銀行、それと鉄道会社、その付属事業を行う会社。それらを設立することになる。今まで以上に忙しくなるよ」


「はい」

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