第12話 客車内の法案立案

 帝都での仕事を終えた昭弥達、彼らは王国へ帰る列車に乗っていた。

 来たときとは違い、目的を全て達成したのだ。不安の空気は一掃され、明るい雰囲気に包まれている。


「これで事業を進めることが出来ますね」


 帰りの列車の客室で向かい合うように座った昭弥にユリアは尋ねた。

 まだまだ道は険しいが歩き出すことが出来て、ある種の高揚感を二人は共有していた。


「はい、予定通りの金額が手に入りましたし、実行するだけです」


「戻ったら忙しくなるのね」


「ええ、やるべき事が山ほどありますから」


「私に出来ることがあったら何でも言って下さいね」


「では早速、いくつか法律を発布して欲しいのですが」


 そう言って昭弥は懐からいくつか書類を差し出した。


「これは?」


「計画に必要と思われる法律です。会社法、鉄道法、鉄道保安法、銀行法、商法、証券法など幾つもあります」


「? 鉄道を建設するのですよね。どうして会社や証券、処罰の法律が必要なのですか?」


「鉄道を動かしやすくするためです」


 昭弥は丁寧に説明を始めた。


「鉄道は本来は非常に速度の速い移動手段です。今でも、数倍の速度で移動できます。ですが、動かせません。何故なら、レールの上に勝手に入り込む人間や動物、レールにイタズラをする者が後を絶ちません。安全に移動するためにレールや鉄道関連施設を護る法律が必要なのです。他の刑法でも処罰できるかもしれませんが、解りやすくするために新たに法律が必要と考えました。また領地を幾つも超えるので犯罪の処罰を迅速化するためにも鉄道専門の捜査機関を設けます」


「証券や会社や銀行法は?」


「鉄道を使いやすくするためです。現在の契約方法だと正式な書類の作成などで時間とコストがかかっています。これを簡単にして、鉄道を使いやすくするのです。例えば、何年も同じ日に列車を使えるようにする契約をむすんだり、急に運ぶ荷物が出来て、列車が必要な時に直ぐに契約できるようにします。これで鉄道の利用者が増えます」


「なるほど」


「また、この法律は商売を活性化する事になります。何しろ、契約が結びやすく、護られるのですから、この法律を利用して商売をしようと考える人が多くなり王国が活性化するでしょう」


「鉄道開発法には会社に王国から認可された線路から一里以内の優先開発権が付与されていますね」


「はい、周辺の開発を行わなければ、鉄道は力を発揮できません。予め開発計画を提出し認定されることを前提にしています。適正価格での購入を義務づけていますし、問題は無いはずです。反発は大きいでしょうが購入の根拠となる法律が必要です。ですから、どうか法律を施行して欲しいのです」


「解りました。施行しましょう」


「大臣の説得などが必要でしょうが……え? 施行するんですか?」


「はい」


 こんなに簡単に許可されるとは思わなかった昭弥は驚いた。


「いや、もっと検討したり、調整が必要で国に着いてから数日かかると思ったのですが」


「私はルテティアの女王です。議会に推し量る必要はありますが、可決させます。もしぐずるようなら女王の権限で施行します」


「大臣に推し量る必要とかは?」


「私が聞くことがあったり、進言されることはあっても、彼らの許可を必要とすることはありません」


 正に絶対権力者の言葉だった。


「それにあなたが、王国に不利益を与えるようなことを考えるわけないでしょう」


「は、はい」


 反射的に答えるだけで昭弥は精一杯だった。

 昭弥より少し押さない程度の年齢にもかかわらず、毅然とした態度に昭弥は畏怖を感じた。


「だから」


 だが、次の瞬間、ユリアの表情が変わった。


「あなたの、言葉に全て従います」


 上目遣いに断言されて昭弥はドキリとした。


「は、はい。王国のために全力で尽くさせて貰います」


 昭弥が断言すると、ユリアは伏し目がちに言葉を紡いだ。


「あ、あの、それで出来れば王国だけでなく、わ、わたしも」


「ユリア様、お茶が入りました」


 同じ部屋に居たマイヤーが口を挟んだ。


「親衛隊長がそんな事までする必要はないでしょう」


「陛下の身の回りを整える人物が必要です。この部屋は狭いので、こうして三人のみしか入れないので私がするしかないのです」


「あなたが無理矢理入って来たように記憶しているのですが」


「当然です。親衛隊長としてユリア様のおそばを離れるわけには、ゆきませんから」


 そう言って紅茶をユリアのもとに差し出した。


「ありがとう」


 渋々と言った感じでユリアは紅茶を受け取ると一気に飲み干した。


「そういえば、列車保安法に列車、施設への損壊行為は懲役三年とありましたけど」


「はい、列車を破壊され運行を妨害されないようにするためです。厳しすぎますか?」


 日本の刑法の器物損壊罪を参考にしたのだが、こちらの法体系と乖離していたのだろうか。


「いえ、軽すぎるのではないかと」


「そうなんですか?」


「はい、金貨一枚盗んだだけで首切りとなっていますから」


「厳しすぎません!」


 あまりの重さに昭弥は、叫んだ。

 金貨一枚が日本社会で一〇万ぐらいだと思う。それで死刑は厳しすぎないだろうか。


「このルテティアは他の国から移り住んでくる人々が多く、何の地位も財産もないため、処罰しようにも懲役では意味が無く、没収できる財産もありません。そのため、その身を以て処罰せざるを得ないのです」


「新撰組みたいだな」


 今日の新撰組は、身分に関係なく登用していたが、荒くれ者が多かったのと、身一つで入った人物が多かったため生半可な処分では通用しないので、一寸のミスでも死罪にした、と聞いたことがあった。

 ここは、それを地で行っているのだ。


「もう少し、重くした方が良いと思います」


「ははは、そうします……」


 他の人と相談して決めようと昭弥は決心した。

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