幕間1(リース視点)、慌ただしく日々は過ぎて行き
◇ ◇ ◇
それから、慌ただしく日々は過ぎて行きました。
戦いの爪痕は深く街に残り、元通りの生活を送ることができるようになるのはまだ先のことでしょう。それでも街の人たちは少しずつ瓦礫を片付け、元の姿に戻そうと頑張っています。
ボクたちも微力ながらお手伝いをしていて、
時々、瓦礫の中から亡くなった方の遺体が見つかることがあります。その度に、もしかしたら、自分もこの人と同じような姿になっていたかもしれないという考えが頭の中を過ぎります。
今ここにある命は、あの人が守ってくれたものなんだって——そう痛感するのです。
「依頼は無事に達成ですね。こちらが報酬になります」
その日の午後、ボクたち3人は
魔物は変わらず人々の脅威であり続け、新しい
「さて、今日も無事終わったっスねー。みんなはこの後何するんスか?」
「……フィオは、昨日のお手伝いの続きをしにいく」
フィオちゃんがいつもの抑揚のない口調で言いました。
フィオちゃんは今、大きな瓦礫を火の精霊術で砕いて運びやすくする仕事をしています。とても評判がいいみたいで、あちこちから要請が来ています。
「それじゃあ、自分はフィオの付き添いっスね。瓦礫を運ぶ人は足りないくらいっスから」
ユイちゃんが腕を曲げて、笑いながら言います。
力持ちのユイちゃんは、すごい速さで瓦礫を荷車に積み込んでいきます。なので、フィオちゃんと同じくらい人気です。
剣を振るうことしかできないボクは、あまり力になることができていません。
「リースはどうするんスか?」
ユイちゃんに話を振られて、ボクは少し言葉に詰まります。
「ボクは……シグさんの所に行こうと思うんだ」
街の人たちの手伝いをしない後ろめたさから、ボクは目線を下げて答えました。だけど2人は気にするどころか、明るい声で賛成してくれます。
「それはいいこと。最後に行ったのが3日前だから、そろそろ行った方がいいと思っていた」
「そうっスね。
「……うん、ありがとう! じゃあ行ってくるね!」
ボクは2人に手を振ると、駆け出していきました。
もしかしたら、ユイちゃんもフィオちゃんも気を使ってくれたのかもしれません。ボクが最近、ため息をついてばかりだから。
元気がないのは、自分でもわかっていることです。
ボクは城門から街の外に出ると、街道を進んで行きました。
着いたのは、山間に広がる森です。フィオちゃんがつい最近までずっと住んでいた場所でした。
ボクは森の中の道を脇目も振らずに歩いて行きます。最初にこの森へ来た時は、怖がりなボクはあの人の後ろで怯えていました。だけどもう何回も通っているので、すっかり慣れっこです。
途中で道を逸れて、森の奥を目指します。周囲が夜のように暗くなってきました。
藪をかき分けると、視界が開けました。広場のようになった場所の中央に、一際大きい植物が生えています。
「こんにちは、ドアテラさん!」
ボクが声をかけると、植物はゆっくりと動いて真っ赤な花を開かせました。
俗世を嫌って自分を花の姿に変えた高名な
『あら、ようこそいらっしゃいました……雷の勇者様』
花の中央部から女性の声が聞こえてきます。
「もう、その呼び方をされると恥ずかしいよ。ところで……シグさんは元気ですか?」
『ええ、元気ですよ。容体は安定していて、とても静かに眠っています』
ドアテラさんの根元に、蔦が何重にも絡んだ塊がある。その蔦が一本一本解けていった。
ボクは蔦の塊に近くと、恐る恐る中を覗き込んだ。
「……シグさん、来ましたよ」
声を掛けて、思わず涙が溢れそうになる。
蔦で作られた揺りかごの中では、1人の青年が静かに眠っていた。
あの戦いから1ヶ月余り。シグさんは、この場所で眠り続けている。一度も目を覚ますことはなく。
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